国内外の大手製造業がいま、顧客の「成功体験づくり」を重視するワケ:製造業のための「カスタマーサクセス」入門(1)(1/3 ページ)
顧客の成功体験づくり、すなわち「カスタマーサクセス」の重要性に国内外の製造業から注目が集まっています。本連載ではこの概念がなぜ注目されているのか、どのような取り組みを進めるべきなのかを解説していきます。第1回は国内外製造業のカスタマーサクセスの取り組み事例と狙いを紹介していきます。
製造業に関わる皆さま、カスタマーサクセスという言葉を耳にしたことはありますか。直訳すると「顧客の成功」、つまり、顧客の成功体験づくりを支援するという概念です。
仮に聞いたことがあったとしても、自分達製造業には関係ないと感じている人もいるかもしれません。これは当たり前の感想だともいえます。多くの人は社内でカスタマーサクセスという言葉を目にしたり聞いたりした経験がないでしょう。そうでない場合でも、カスタマーサクセスは定額料金で一定期間サービスを受けられるサブスクリプション(サブスク)型サービス提供企業の専売特許と思っている人がほとんどかと思います。
しかし実際には、これまでサービスではなく主にモノを提供してきた製造業においてもカスタマーサクセスという言葉が浸透してきています。筆者はカスタマーサクセスの概念が、今後、製造業が事業を展開する上で前提とすべき欠かせない要素、いわば”身だしなみ”のような立ち位置になっていくと考えています。今回は実例も交えながら、「顧客の成功体験づくり」がありとあらゆる製造業にとって、重要な概念となり得ることを説明していきましょう。
海外製造業では既にカスタマーサクセスに注目している
皆さまもよくご存じのシーメンスは、ドイツのミュンヘンに本社を構える欧州最大級のコングロマリットです。電子機器や電信などを手掛ける製造会社から発展し、現在では約200カ国で、情報通信や交通、生産設備、ヘルスケアなどの分野において製造やシステムソリューションなどの事業を幅広く展開しています。
このシーメンスですが、求人情報を見てみると、カスタマーサクセスに関連した求人数はグローバルでなんと1930件もあることが分かりました(2022年3月16日時点、以下同)。
他の企業ではどうなのだろうかと筆者が調べたところ、同じくドイツに本社がある、総合大手化学メーカーのBASFでは、グローバルで59件の募集がありました。また、「フォーチュン・グローバル500(Fortune Global 500)」のランキングにも入っている、電気や電子機械機器の製造販売を手掛ける米国コングロマリットのエマソンでは113件の求人があります。グローバルでは製造業においてもカスタマーサクセス関連の求人がこんなにもあることに驚きます。
さらにシーメンスのWebサイトを見てみると、既存の製造業とは明らかに異なるメッセージ発信がなされていることが分かりました。製造業のメッセージ発信といえば、これまでは「他社より、いかに機能や性能が優れているか」という視点でなされるのが“王道”であったように思います。しかし、シーメンスは「いかに顧客の課題を解決し、成功に導いたか」という視点に立ち、カスタマーサクセスの事例を多く紹介しているのです。
そればかりではありません。シーメンスでは同社製品を利用しているユーザー間のコミュニティーの場を作り、困り事の解決や成功体験の共有を広げています。なお、このユーザー同士のネットワークづくりは、先ほど紹介したエマソンも積極的に行っています。
このようにカスタマーサクセスを重視する動きは、海外製造業で既に出てきており、求人件数を鑑みても、どうやら本気でカスタマーサクセスに取り組もうとしていることがヒシヒシと伝わってきます。
しかし、これはあくまでも海外におけるトレンドです。国内動向がどうなっているかについても見ていきましょう。
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