境界条件非線形性をもたらす接触と追従荷重について理解する:いまさら聞けない 非線形構造解析入門(5)(1/4 ページ)
多くの3D CADではオプションとしてCAE機能が用意されているが、多くの方が「線形解析」での利用にとどまっており、「非線形解析」にまで踏み出せていない現状がある。本連載では、構造解析でも特に非線形解析にフォーカスし、初心者向けに分かりやすくその特長や活用メリットなどを紹介する。連載第5回では、3つの非線形性のうちの最後の1つ「境界条件非線形性」について取り上げる。
今回は解析に対して影響を与える3つの“非線形性”のうちの最後の1つ、「境界条件非線形性」について説明します。
境界条件非線形性というと何だか難しく聞こえるかもしれませんが、ざっくりと捉えるならば、いわゆる「接触」のことだとご理解ください(後述する通り、接触だけではありませんが)。ただ、「線形解析にも接触ってあるのでは?」との疑問を持たれるかもしれませんので、「線形接触」と「非線形接触」とに分ける方がより厳密といえるでしょう。
基本的に、線形解析における接触では、接触面における状態が「固着している」、または「微小な滑り」などに限定されているものとお考えください。これに対して、非線形解析における接触では、解析の進捗(しんちょく)に応じて「大きく滑る」、あるいは「分離する」など、状況が大きく変化していくことも珍しくありません。当然、それに応じて接触部位における節点の境界条件も大きく変化します。つまり、このことが、解析全体に対して非線形性を与えていく要因となります。
ところで、境界条件非線形性をもたらすものは接触だけではありません。一般的に「追従荷重」や「従動荷重」などと呼ばれるものも境界条件非線形性をもたらします。これは、荷重を与えている物体が変形することによって、荷重の向きも変わっていくようなものになります。
まずは、接触の解説から進めていきます。
接触問題について
機械部品やユニットの開発を行う際の解析では、“接触の取り扱いはほぼ必須”といえるのではないでしょうか。基本的な条件の検討に単品の解析をすることはもちろん珍しいことではないですが、そもそも多くの部品は複数の異なる部品と隣り合い、相互に影響を与えています。特に、柔らかい部材を中心に、単品であっても自己接触がある場合も考えられます。そういう意味で、多くの解析において接触問題を扱うことは“ごく普通”だといえます。
しかし、有限要素法を使って解析をしていく上で、接触問題を扱うのは少々面倒くさいところがあります。なぜなら、有限要素法の構成式には“2つ以上の異なる部材の間に力が伝達する仕組みが組み込まれていない”からです。つまり、何もしないでいると、2つの物体が接触する状態になってもお互いに相手がそこに存在していないかのごとくすり抜けてしまいます。そこで、“接触の設定”が必要になるわけです。
どの解析ソフトでも、接触の設定を忘れてしまうと本当にすり抜けが発生してしまいます。ソフトによっては接触の設定手順が非常に簡略化されているものもありますが、より詳しく設定しようと思うと案外煩雑な手順を必要とします。
ところで、接触の設定をするとどういった処理が行われるのでしょうか? なぜ「接着」や「分離」などの設定をすれば、ぶつかることを検知したり、接着させたりするような処理をしてくれているのでしょうか? 次にそのあたりのことを説明していきたいと思います。
実は、接触は非線形解析を進める上で非常に重要なものであり、また厄介なものでもあります。接触の処理のために、解析がなかなか前に進まないことも珍しくありませんし、設定のパラメーターについてもよく理解しておかないと、それも接触解析がうまく進まない原因になり得ます。
接触処理の方法
有限要素法で計算を進めていく際、接触を計算式の中に組み込むための手法は複数あります。
以下にその代表的なものを示します。商用ソフトの多くでは、これらの理論をベースに接触処理が実装されていると思います。接触が関わらない問題と関わる問題の違いは、接触によって生じる制約条件を考慮に入れて解かなければならないということです。詳しい方はいろいろと意見もあろうかと思いますが、ここでは以下の3つを接触処理の手法として紹介します。なお、詳しい数学的な説明については、ここでは割愛します。
- ラグランジュ未定乗数法
- ペナルティ法
- 拡張ラグランジュ法
以降で、これら3つの接触手法の概要について解説します。まずは、ラグランジュ未定乗数法からです。
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