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ショートしてから発火するまで、リチウムイオン電池の中で起きていることは今こそ知りたい電池のあれこれ(16)(2/3 ページ)

リチウムイオン電池の発火の引き金となるのは「短絡」です。では、短絡が発生した後に発火へと至る電池の中では具体的に何が起こっているのでしょうか。

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 短絡などの温度上昇の引き金となる事象をきっかけに、80℃付近で電極と電解液との反応や電解液単独の熱分解反応が発生します。電極近傍の反応は負極と電解液との反応が正極よりも先行する傾向にあります。

 次いで、おおよそ140℃付近でセパレータの熱変形が発生します。セパレータは電池内部で正極と負極を分離する樹脂製の微多孔膜です。充放電に伴うリチウムイオンの移動を妨げないイオン透過性と、正極と負極の接触による短絡発生を防ぐための電気絶縁性や機械的強度を有しています。電池が激しい燃焼を伴うような熱暴走に至るかどうかを左右するポイントの1つは、セパレータの有する機能性にあります。

 セパレータが、電池に激しい外部衝撃や機械的な変形が加えられた場合にも電極間の絶縁性を担保できる「機械的強度」を有することで、熱暴走の引き金となる短絡の発生リスクを低減します。また、異常発熱に伴う温度上昇が発生した場合にセパレータの孔を塞いで電極間のリチウムイオンの移動および反応進行を抑制させる「シャットダウン」機能や、より高温でセパレータが溶けてしまったとしても正極と負極の全面的な短絡を防ぐための「溶融形状保持性」が求められます。

 セパレータの変形よりもさらに高温の領域では電極の熱分解が発生します。電極の構成成分によって分解温度は異なり、まずは電極中の結着剤(バインダー)と呼ばれる樹脂成分の分解、その後に電池容量を担う電極活物質の分解が起こる傾向にあります。

 特に問題となるのは、おおよそ200〜300℃付近で発生する正極活物質の分解です。正極活物質の多くは熱分解や結晶構造崩壊に伴って燃焼に必要な酸素を放出する「酸素供給源」として働いてしまいます。制御不能な温度上昇が続くと、約660℃を超えた辺りで正極集電体のアルミニウム箔が溶解し始め、最終的にはアルミニウムによるテルミット反応が起こり、1000℃以上もの高温になる恐れもあります。

可燃物、酸素供給源、点火源……燃焼の3要素

 こういったリチウムイオン電池の危険性について考える際に注意すべきなのは、単独で「燃焼の3要素」(可燃物、酸素供給源、点火源)を兼ね備えているということです。この特徴が製品としての管理や取扱い、安全性の担保に対する難易度を上げる要因となっています。

 冒頭の例で考えると、ハンディーファンの発火事例は落下の衝撃が短絡(点火源)となっている場合が多いです。また、スマートフォン端末やモバイルバッテリーの事例では、夏場に高温となる車内へ放置したことが温度上昇のトリガーとなっています。この事例のように、特に強い外部衝撃などがなくともその他の引き金となる現象があれば、電池内部の可燃物や酸素供給源を巻き込んで発火に至ってしまう可能性があるというのは注意すべき点であります。

 ごみ収集の場合は収集車内部や廃棄物処理施設での処理工程で電池に外部衝撃が加えられて発火に至る事例が多いですが、これらに関しても、必ずしも外部衝撃だけが発火原因ではないことには注意が必要です。

 近年、廃棄物処理施設では、火災検知器と連動して炎が検知された時点で処理ラインを停止し、放水するような自動消火設備の導入や、外部衝撃を加える破砕機やその周辺のプロセスを含むような蒸気防爆領域の設置といった火災防止対策が進められています。ただ、先述の通り、リチウムイオン電池は単独で燃焼の3要素を満たすため、例えば蒸気防爆領域を抜けた後段のプロセスで発火に至るという事例もあり、完全な対策は難しいのが現状です。

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