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CO2見える化のルールづくりはどこまで進んだか、JEITA担当者が語る現状と課題製造業×脱炭素 インタビュー(2/3 ページ)

現在、サプライチェーンのGHG排出量見える化に関するルール作りが国内外の団体で進められている。JEITAもそうした団体の1つだ。「Green x Digitalコンソーシアム」の設置や、その部会である「見える化WG」を通じて議論を深めている。GHG排出量の算定や可視化の枠組み作りに関する議論はどのように進んでいるのか。また今後議論すべき課題は何か。見える化WGの担当者に話を聞いた。

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1次データと2次データが混在する「過渡期」

 現状、見える化WGは大きく分けて2つのテーマに取り組んでいる。1つは国内企業のサプライチェーンにおける排出量データの算定方法のルールづくりだ。稲垣氏は「GHGプロトコルは算定方法を細かくケースバイケースで指定しているわけではない。細かな状況に対応できるデータ算定フォーマットを確立しなければ、サプライチェーン全体でデータを積み上げていくのは難しい」と説明する。

 ルールづくりに当たって見える化WGが重視しているのが、いかにして企業によるGHG排出量の削減努力を適切に反映する仕組みを作るか、という点である。ここでカギを握るのが、排出量算定における1次データの採用だ。

 1次データはIoT(モノのインターネット)センサーなどで企業自らが測定した、GHG排出量の実績値を示す。企業の排出量を正確に反映するので、「将来的にはサプライチェーン上の企業間のデータ交換は、1次データをベースに行われることが理想である」(稲垣氏)といえるだろう。


1次データ利用はサプライヤーのGHG排出量削減努力を適切に反映することにつながる[クリックして拡大] 出所:Green x Digital コンソーシアム

 しかし現時点では、1次データではなく、取引金額と排出原単位を基に推計した「2次データ」をGHG排出量として扱っている企業が多い。2次データを用いる場合、例えばサプライヤーが再生可能エネルギーの導入や省エネの実践を通じてGHG削減努力を行っていても、その取り組みの成果が排出量データに反映されにくくなるという問題がある。

 サプライチェーンを構成する企業の多くは中小企業だ。これらの企業が全ての工場や事業所においてセンシング機器やGHG排出量算定ツールを導入し、1次データを取得するようになるまでには、長い時間がかかると予測される。このため全企業が1次データを活用している状態を「理想」としながら、稲垣氏は「理想は一足飛びには実現しない。現状を、サプライチェーン上に1次データと2次データの両方が混在する『過渡期』として捉えつつ、段階的に1次データのシェアを上げる取り組みが必要になる」と指摘した。

 「過渡期」においては、1次データを使う企業と2次データを使う企業で不公平感が出ないような仕組みを作る必要がある。「特定のサプライチェーン上での1次データと2次データの採用率を見える化する他、2次データ採用企業が使う排出原単位のデータベースを統一化することも検討する必要がある」(稲垣氏)。将来的にはサプライチェーン上の1次データと2次データの混在率が、その企業における脱炭素の取り組みを評価する1つの基準となる可能性もあるという。

 「過渡期」がいつまで続くかは不透明で、場合によっては数十年単位に及ぶ可能性も捨てきれない。見える化WGでは実証フェーズを通じて、1次データ活用が広まるまでの期間について、ある程度の見通しを立てられるようにするとしている。

データ共有の信頼性確保をどうするか

 そして、見える化WGが取り組むもう1つのテーマが、多種多様な見える化サービスやソリューション間での相互データ交換を可能にするルールやフォーマット作りだ。

 そもそも見える化WGは、少なくとも一次レポートを発表した時点では、企業のサプライチェーン全体でのGHG排出量データを一元的に管理、把握できる統一的なデータプラットフォームを構築する構想があった。サプライチェーン全体の排出量を見える化するには、何らかの形で企業間でデータを共有する仕組みが必要だからだ。

 しかし現状、GHG排出量データの算定ソリューションや、それらのソリューション間のデータ交換を支援するソリューションなどが国内外で多く提供されている。こうした現状を踏まえ、現在の見える化WGでは、「大量のデータを適切に交換するためのルールとフォーマット形成に注力し、整備している」(稲垣氏)のだという。これによってさまざまなソリューションが国内外でつながり、国際的かつ業界横断的にデータ交換する仕組みづくりを実現する計画だ。

 ただ、統一的なデータプラットフォームに頼らずデータ共有を行う場合、データのマネジメント難易度がより高いものになりかねない。データの開示範囲やセキュリティ面の検討に加えて、そもそも排出量データの数値が正確であるのかといった、データの信頼性確保の手段に関する議論も求められる。信頼性確保に関しては、第三者機関の設置なども視野に入れて検討する必要があるだろう。

 これらの課題解決の重要性を認識しているとした上で、稲垣氏は「SWGでもこの点を議論しようとしたが、行政も絡んでくるなどさまざまな観点での検討が必要になるため、当会員だけでは決めきれない部分がある。棚上げになっているのが現状だが、具体的な対策は次年度にかけて時間をかけて議論していきたい」と説明した。

 またこれらの検討においては、GHGプロトコルを策定した団体の1つであるWBCSD(持続可能な発展のための世界経済人会議)が提唱するPACT(Partnership for Carbon Transparency)と呼ばれる仕組みを参照する。PACTはスコープ3の透明性確保を目的に作られており、取得すべきデータ項目とデータ接続のためのAPIなどを公開している。PACTはデータ交換のグローバルなデファクトスタンダードになる可能性があり、こうした動きにも注目していく。


PACTの詳細[クリックして拡大] 出所:Green x Digital コンソーシアム

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