リュウグウより小さい直径わずか30mの小惑星へのタッチダウンは可能か?〜拡張ミッション【後編】〜:次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(21)(2/4 ページ)
2012年5月から始まった小惑星探査機「はやぶさ2」のプロジェクトを追う本連載も今回で最終回。大成功となった小惑星「リュウグウ」からのサンプルリターンに続く「拡張ミッション」解説の後編として、2026年7月予定の小惑星「2001 CC21」のフライバイ観測、2031年7月予定の小惑星「1998 KY26」のランデブー観測について解説する。
ターゲットを“紙一重”で避けろ!
はやぶさ2の戦略を説明する前に、まずは事実関係を整理しておこう。2001 CC21とすれ違うとき、接近距離と角速度の関係を示したのが下のグラフである。ここで、注目してほしいのは、最接近点(CP)の距離を変えたとき、角速度がどう変わるのか、ということだ。
遠くを通過するときは(グラフではCP=500kmの青線)、最初から角速度は大きめになるものの、増加のカーブは緩やかだ。ただし、500kmを切ったあたりで、もう秒速0.3度に達してしまう。一方、近くを通過するときは(CP=10kmの緑線)、最初は角速度は小さいまま推移し、接近すると急激に増加する。ただ、秒速0.3度に達するのは、100km付近となる。
つまり、より接近するコースの方が、通過直前まで追尾できるということになる。ちょっと意外にも思えるが、このときの位置関係を示すのが下の図だ。
極論を言うと、CPが0km、つまり衝突する場合は、最後まで追尾は不要になる。しかしここでぶつけるわけにはいかないので、なるべくギリギリを通過するのが最善策。名付けて「紙一重」方式だ。
CPが10kmなら、何とか距離100kmくらいから撮影できそうだが、秒速0.3度というのは過去の実績であって、探査機の機能としての上限ではない。三桝氏によれば、「秒速0.6度くらいまでは高速化できると思う。できれば秒速1.0度も狙いたい」という。もし秒速1.0度が実現すれば、50kmくらいからの観測も可能になりそうだ。
さらに、CPも10kmが限界というわけではなく、「軌道誘導精度が許す限り近づきたい。1kmとか、もっと下も含めて検討する」と三桝氏は述べる。
ではCPをどこまで近づけられるのか。この検討に使うのが誤差楕円だ。地球帰還時の説明でも使われたが、この楕円の大きさは軌道誘導精度を表してる。精度が高いと円は小さく、逆に低いと大きくなる。大きければ大きいほど、どこを通るのか分からない状態、というわけだ。
基本的には、この誤差楕円が重ならないギリギリのところを通過する、という戦略になるのだが、この円の大きさは、標準偏差(σ)の設定次第で変わる。
地球帰還時のように人命に関わるようなときは、4σ(99.994%)のように厳しくする必要もあるだろうが、これだと誤差楕円が大きくなる。しかし2001 CC21は無人なので、そこまでの厳しさは過剰かもしれない。2σ(95.45%)や3σ(99.73%)で十分な可能性もあり、そこもこれから検討するそうだ。
なお探査機の姿勢については、角速度以外の制約要因もある。例えば太陽の方向。通常の運用では、太陽電池に光が必ず当たるようにするのだが、追尾の過程で逸脱する可能性もある。これについては、「条件に抵触しない範囲でやるか、あるいは数10分程度はバッテリー運用も許容するか、今後検討したい」とした。
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