コンチネンタルが採用するAEyeの“アダプティブLiDAR”、交通インフラにも展開:組み込み開発ニュース(1/2 ページ)
LiDARスタートアップとして注目されているAEye(エーアイ)の日本法人が、独自のLiDARプラットフォーム「4Sight」の技術の独自性や事業展開について説明。コンチネンタルに採用されている車載向けに加えて、交通インフラや産業機器など非車載向けにも展開する方針である。
自動車のADAS(先進運転支援システム)や自動運転技術を実現するための重要なセンサーとして開発が加速しているのがLiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)である。LiDARの開発では、大手自動車メーカーやメガサプライヤーだけでなくスタートアップ企業も存在感を発揮している。
このLiDARスタートアップとして注目されているのが米国のAEye(エーアイ)である。戦闘機の照準システムの設計をはじめ航空宇宙産業に携わっていたルイ・ダッサン(Luis Dussan)氏が2013年に創業し、NASA(米国宇宙航空局)やロッキード・マーティン、米国空軍、DARPA(国防高等研究計画局)の技術者が加わったAEyeは、スバルやコンチネンタル、アイシンなどからの出資を受け、独自のLiDARプラットフォーム「4Sight」の開発に成功した。コンチネンタルが2024年に量産を計画している次世代LiDARへの採用も決まっており、2021年8月には米国株式市場のNASDAQに上場し、今後の事業拡大を進めていく方針である。
独自のバイスタティック技術で“アダプティブLiDAR”を実現
AEyeはグローバル展開を拡大するため、ドイツと韓国、そして日本にも現地法人を設立している。日本法人のAEye Japanは2022年7月14日、東京都内で会見を開き、4Sightの技術の独自性や事業展開の方針などについて説明した。
AEye Japan 代表の三浦栄介氏は「2017年ごろにスバルやアイシンからの出資を受けるなど、日本の自動車業界からの期待を受けて独自のLiDARプラットフォームである4Sightの開発を進めてきた、2021年7月には、ドイツ、韓国などとほぼ同時期に日本法人を設立しており、今後は自動車向けだけでなく交通インフラ、産業機器向けの事業展開を強化していく」と語る。
4Sightは、競合他社のLiDARと異なる特徴が3つある。1つ目は、センシングに用いる赤外光の波長である。一般的なLiDARではレーザー光源が安価な905nmを用いているのに対して、4Sightは1550nmを利用している。AEye Japan 技術責任者の岡田健成氏は「1550nmは、905nmに比べて太陽光によるノイズの影響が少なく、より高い出力を出せるので長距離のセンシングで有利だ。レーザー光源そのもののコストは905nmより高くなるが、性能向上のメリットなどを含めたシステム全体の観点で見れば十分カバーできる」と説明する。
2つ目は、センシングの構造に回転機構や物理ミラーを用いないソリッドステート式を採用していることだ。光源は1つだが、MEMS(電子微小機械システム)ミラーを組み合わせており、LiDARに求められる広範囲のスキャンニングを実現している。
そして3つ目が、赤外光によるスキャニングをソフトウェアで制御する技術だ。「通常のLiDARでは画角全体を均一にスキャニングするが、4Sightはスキャニングの1ショットごとに距離方向のレーザーの出力を変えられる“アダプティブLiDAR”である」(岡田氏)。例えば、ADASなど向けに車両前方の検知を行う場合、最も詳細に検知したいのは進行方向正面の中距離〜遠距離であり、その次に中距離〜遠距離における進行方向正面の左右の状況、その次により手前の道路の路面状況、というような形で優先付けすることができる。もちろん、全ての範囲で近距離〜長距離を検知できればいいが、LiDARの光源から照射できる光の量に上限がある以上、限りある光を最適に配分する必要がある。この最適な配分をアダプティブ(適応型)に行えることが4Sightの最大の特徴になっている。
また、ADAS向けのLiDARの場合、高速走行時は先述のような優先付けでスキャニングを行えばいいが、渋滞時は近距離の目の前にある車両を含めた広い範囲での周辺の状況に関する情報が必要になる。通常のLiDARでは、高速走行時と渋滞時、それぞれの場面に合わせて最適な対応を切り替えるのは難しいが、4Sightはソフトウェア制御によってスキャニングパターンを動的かつ瞬時に切り替えられるため、1つのLiDARでさまざまな機能を実現できるのである。
このアダプティブLiDARを実現する要素技術が、AEye独自のバイスタティック構造である。一般的なLiDARは、照射光と反射光が同軸上になるモノスタティック構造を利用している。モノスタティック構造では、レーザー光をミラーで反射して前方に照射し、その反射光はミラーを透過して受光素子で受けることになるが「ミラーが大きくなるとともに、受光素子のサイズが再現されてしまう」(岡田氏)という。これに対してバイスタティック構造は、レーザー光をミラーで反射して前方に照射するまでは同じだが、照射光とは別軸で反射光を受光素子で受ける構造になっている。「これにより、ミラーを小さくして早く動かせるとともに、振動や衝撃にも強くなる。ミラーのサイズに制限されていた受光素子も大きくできる。さらに、同一フレーム内で再度同じ場所への光の照射も可能になる」(同氏)。AEyeはこのバイスタティック構造関連の特許を100件以上有しているという。
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