ロボット運用に最適なフィジカルセキュリティの考え方:ロボットセキュリティ最前線(5)(1/3 ページ)
ロボットの利用領域拡大が進む一方で、ネットワーク化が進むこれらのロボットのセキュリティ対策については十分に検討されているとはいえない状況だ。本連載ではこうしたロボットセキュリティの最前線を取り上げてきた。第5回となる今回は「既にできている」と考えられて見過ごされがちなフィジカルセキュリティの考え方について紹介する。
サービスロボットをはじめ、日常の生活の中でもロボットを目にする機会が増えてきた。昨今の働き手不足や少子高齢化社会の背景もあり、ロボットの需要はより一層高くなる一方で、まだまだセキュリティの課題も残っている。本連載では、こうした問題を提起し、ここまで、ロボットのセキュリティに対しての法規制や安全規格、特徴や課題に関して紹介してきた。
セキュリティの脅威は、目に見えないサイバーセキュリティの領域と、物理的な破壊などを脅威とするフィジカルセキュリティの領域がある。一般的にセキュリティが確保されている環境を維持するにはサイバーセキュリティとフィジカルセキュリティの両要件を満たす必要があり、ロボットにおけるセキュリティも同様に対策を講じる必要があることを前回紹介した。第5回目となる今回は「フィジカルセキュリティ」の観点からのロボット運用におけるセキュリティ考え方について解説する。
守る対象は人とロボット
フィジカルセキュリティについて定義すると「想定されるあらゆる脅威に対して、物理的な対策を講じる仕組み」と表現できる。その仕組みの一部として、機械警備や周囲警戒、監視カメラによる証跡管理、入退室制御などが挙げられる。ただ、これらの機能は現在の仕組み上では主に「人と人同士」に対するものになっている。これからロボットと人が共存する社会が到来することを考えると、現在のフィジカルセキュリティの枠組みである「人と人同士」だけの仕組みでは不十分となり「人とロボット」への仕組みに変えていく必要がある。
ロボットにおけるさまざまなインフラ環境のサイバーセキュリティ対策が万全であっても、物理的な破壊行為は防ぐことはできない。例えば「ロボットの制御装置を基板ごとすり替える」や「本来ロボットの仕様として想定されていないもの(各種センサーを含む情報集積装置や、異物、爆発物など)を強制的に取り付けること」「センサーを誤動作させる」「ロボット本体を破壊」など、さまざまな物理的な脅威が想定される。これらの物理的な脅威に対処するためには、フィジカルセキュリティ対策が必要であり、以下の様な対策が求められる。
- ロボットの保管場所の厳格化(セキュリティレベルの厳格化)
- ロボットメンテナンス作業人員の物理的なアクセスレベル制御(入退室制御)
- 各保管場所のモニタリング(監視・証跡)
- メンテナンス作業の記録(監査)
- メンテナンス作業員の持ち込み物検査、入館資格承認(本人確認)
- ロボットに危害が加えられてないかを検知・モニタリング(監視)
ロボットの物理的な脅威から人を守る
一般的にロボットは、人に対して危害を与えないためにさまざまな安全対策が講じられている。しかし、ハードウェアとソフトウェアで構成されている機械である以上、誤動作または各種破壊行為に起因し想定外動作をする可能性は完全に排除できない。誤動作の範囲内であれば対策を講じることは可能ともいえるが、各種破壊行為を受け不正改造されたロボットの挙動は誰も予測ができない上に、既に内部制御が効かない状態である可能性が高く、こういったロボット個体は人々の生活において大きな脅威と化す。そのため、人災や自然災害などと同様に常に発生する可能性がある脅威としてそれらに対策を講じる必要があり、“ロボットの制御システムに依存しない”別のシステムからの監視や管理の仕組みが必要となる。
上図のように、フィジカルセキュリティの根幹となる監視カメラ(証跡管理)、入退室管理システム(動線制御)を中心に、有事の際は警備システムに連携支援を行う必要がある。ロボットと人が共存して生活をするためには、ロボットの挙動に対しても適切な監視運用が行える仕組み作りが必要とされ、ロボットと人が共存する社会を維持するための基幹システムとして必要不可欠な存在になるだろう。
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