検索
連載

ブレグジット後の英国で加速するポストコロナ時代のデータ駆動型保健医療改革海外医療技術トレンド(85)(2/4 ページ)

本連載第70回や第83回で、ポストコロナの時代における欧州連合(EU)のデータ駆動型健康戦略やデータ越境利用の共通ルールづくりを取り上げたが、Brexit(ブレグジット)後の英国は、どのように対応しているのだろうか。

Share
Tweet
LINE
Hatena

NHSデジタルが担うがん領域のナショナルデータベース運用管理

 また、UKHSAの発足と同時に、PHEが運用してきた全国がん登録・分析サービス(NCRAS)をNHSイングランド傘下のNHSデジタルに移管することも発表された。今後は、NHSデジタルが、がん登録情報の匿名化管理、オプトアウト手続窓口の運営などを行うとしている。

 NHSデジタルは、「2012年保健・高齢者ケア法」に基づき、英国における保健、社会医療データの収集、転送、保存、分析、普及を目的に設置した「保健・社会医療情報センター(HSCIC)」が前身であり、2016年7月に現在の名称に変更している(関連情報)。

 旧HSCICは、2015年7月に公表した「ケア向上のための情報技術:保健・社会医療情報センター戦略2015〜2020年」の中で、以下のような戦略を掲げていた。

  • 全ての市民のデータが保護されていることを保証する
  • 皆に利益のある共有アーキテクチャや標準規格を構築する
  • 国および地域のニーズを満たすサービスを実行する
  • 技術、データ、情報から最善のものを得るように保健医療組織を支援する
  • 保健医療情報をよりうまく活用する

 これらのうち、データ保護については、保健省傘下の全英情報委員会(NIB:National Information Board)が2014年11月に公表した「個別化された保健医療2020:行動のためのフレームワーク」(関連情報)をベースにしている。このフレームワークは、市民自身の選択に基づく個人データの共有モデルを採用しており、「2017年までに個人10万人分のゲノムシーケンス解析を実施し、2018年までに医師が総合診療、救急医療およびその他の医療状況の推移において、紙の記録を使用することなく業務を遂行すること」と「2020年までに、全ての医療記録がデジタル化、リアルタイム化され、相互運用可能になること」を目標としていた。その上で、データ保護の目標として、「対面診察以外での個人データの共有」や「アプリケーションや医療機器データの共有」を市民が選択できるようにすること、データが医療目的外で利用されたときに市民が把握できるようにするなどを掲げていた。

 前述のオプトアウト手続きに関連して、NHSデジタルは、ナショナルデータオプトアウトというサービスを提供している(関連情報)。これは、2018年5月25日に導入されたサービスであり、患者が、ナショナルデータガーディアンの提言に準じて、研究または計画目的のデータ利用からオプトアウトできるようにする仕組を提供している。

 また保健医療データの2次利用に関連して、NHSデジタルは、2018年6月29日、ソフトウェアソリューションプロバイダーのPrivitarとの間で、患者情報の非識別化(De-ID)向けソフトウェアソリューションを提供するための契約を締結したことを公表している(関連情報)。非識別化は、前述のDARSを通してデータが利用可能な時、異なる仮名化の価値の構築を実現する一連のプロセスである。また、より完全な保健医療データの映像を提供することによって、データの価値を最大化し分析を高めるものであり、以下のようなメリットを提供するとしている。

  • プライバシーを保護し、法令順守を保証する
  • 識別可能な情報を利用することなく、よりよいデータのリンケージを可能にする
  • よりよい分析のための有益なデータを安全に提供する

 PrivitarのNHSデジタル向け非識別化ソリューションは、AWS(Amazon Web Services)のAmazon EC2やAmazon RDS、Amazon DynamoDB、AWS Secrets Managerなどを利用して提供されている(関連情報)。なお、保健医療分野のクラウド利用に関連して、NHSデジタルは、2022年5月4日、以下の4ステップから成る「NHSと公的介護データ:オフシェアリングとパブリッククラウドサービス利用」更新版(関連情報)を公表し、外部クラウドサービスプロバイダー選定時の要求事項としている。

  • ステップ1:データを理解する
  • ステップ2:リスクを評価する
  • ステップ3:制御(データの保護とロケーション)を展開する
  • ステップ4:展開をモニタリングする

 なお、NHSデータのホスティング先については、英国内もしくは欧州経済領域(EEA)の他、英国政府が適切であるとみなした国に限定されている。

 その他、NHSデジタルは、2021年7月23日、どの組織が保健医療データにアクセスしたか、どんな目的でデータ利用を許可されたか、どのような便益が見込まれるのかなどを簡単に把握し、透明性を高めることを目的とするデータ利用登録制度を導入したことを発表している(関連情報)。新たな登録情報には、COVID-19パンデミックへの対応の一環として提供された場合およびその他の保健医療ケアを支援する患者データの利用の場合など、NHSデジタルが提供したデータであることが示されている。

 NHSデジタルは、データ利用の具体例として以下のようなケースを挙げている。

  • コロナウイルス治療法の開発
  • がんサービスの向上
  • 医療における格差の是正

 加えて、データ利用の透明性を高めるために、データアクセス・リクエストサービス(DARS)(関連情報)経由で提供されたデータの影響度評価に関する臨床レビューを公開している。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る