検索
連載

バリュエーションが想定より低かったら? EXITでM&Aを選ぶ際の注意点スタートアップとオープンイノベーション〜契約成功の秘訣〜(11)(2/3 ページ)

本連載では大手企業とスタートアップのオープンイノベーションを数多く支援してきた弁護士が、スタートアップとのオープンイノベーションにおける取り組み方のポイントを紹介する。第11回はスタートアップへの投資契約における、優先株や新株予約権を利用した場合の留意点を解説する。

Share
Tweet
LINE
Hatena

(3)優先株式を普通株式に強制転換する

 一定の事由が生じたことを条件に会社が株式を取得できる権利を定めたものを、取得条項と言います。日本では原則として、優先株式を発行したままでは株式を上場できないため、ある優先株主が普通株式への転換を拒否してIPOに支障が出ることを防止すべく、この取得条項を用いて、全て普通株に転換することが通例といえるでしょう。

 以下では新株予約権を利用する場合の留意点を示します。

転換価額について

 株式ではなく新株予約権を用いて資金調達を行う主な理由は、プロダクト/サービスのリリース前などに、ステージが若いスタートアップのパリュエーションを次回の(株式による)資金調達まで繰り延べて※7、迅速な資金調達を実現するためです。新株予約権取得時点で発行額分の払い込みをするので、その後の新株予約権の行使時点では払い込みがなされません。一方で、投資家は新株予約権から株式(J-KISSではA種優先株)への転換価額を調整することで、次の資金調達で新たに株式を取得する投資家よりも有利な価額で新株を取得できます。シード投資によるリスクをとっていることへの見返りが与えられるような設計となっているのです。

 この転換価額は、「次回増資時の株価×(1-ディスカウント率)」と「キャップ(評価上限額)÷完全希釈化後株式数」の内、価格が小さくなる計算を採用します。

※7:この結果、新株予約権の発行価格を払い込む時点では、新株予約権の行使によって何株取得できるかは分からない。新株予約権行使により得られる株式数を計算する式だけが定められることとなる。

 ディスカウント率について、J-KISSでは、以下で引用するJ-KISS発行要項のように20%で設定されています(「1株あたり発行価額に0.8を乗じた額」)。

 また、新株予約権発行後にスタートアップの企業価値が上昇するほど、投資家が将来転換により得られる株数が減るため、評価上限額(キャップ)を設けます。このキャップに基づいて、転換価額を定める場合の算定式が上述の「キャップ(評価上限額)÷完全希釈化後株式数」となります。なお、完全希釈化後株式数は以下に引用する(a)における定義を参照してください。キャップについては約3〜7億円の範囲で設定される場合が多いようです※8※9

※8:コンバーティブルについては、こちらも参照してほしい。

※9:なお、J-KISSは、2022年4月に改定されている。同改定に関する解説記事はこちらを参照)。

2)転換価額

(a)「転換価額」とは、以下のうちいずれか低い額(小数点以下切上げ)をいう。

(x)割当日以降に資金調達を目的として当会社が行う(一連の)株式の発行(当該発行に際し転換により発行される株式の発行総額を除く総調達額が[100,000,000]円以上のものに限るものとし、以下「次回株式資金調達」という。)における1株あたり発行価額に[0.8]を乗じた額

(y)_____円(以下「ポストキャップ」という。)を次回株式資金調達の払込期日(払込期間が設定された場合には、払込期間の初日)の直前における完全希釈化後株式数で除して得られる額


(中略)


(b)前号にかかわらず、割当日の18ヶ月後の応当日(以下「転換期限」という。)以降における転換価額は、ポストキャップを第(5)(b)号に基づく承認がなされた日における完全希釈化後株式数で除して得られる額(小数点以下切上げ)とする。

(c)前二号にかかわらず、次回株式資金調達の実行日又は転換期限以前に支配権移転取引等を当会社が承認した場合における転換価額は、ポストキャップを当該支配権移転取引等の実行日における完全希釈化後株式数で除して得られる額(小数点以下切上げ)とする。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る