この素晴らしいDXセキュリティに祝福を!:事例で学ぶ製造業DXセキュリティ対策入門(8)(2/4 ページ)
社内DXセキュリティプロジェクトチームのリーダーに任命された、ABC化学薬品新卒6年目の青井葵。元工場長の変わり者、古井課長の手助けも得て、製造業がDXプロジェクトと併せて進めるべき「DXセキュリティ対策」を推進していく本連載。最終回となる今回は、工場セキュリティとIoT農薬散布ドローンのセキュリティという2つのプロジェクトを通じてDXセキュリティの勘所を探る。
「共感する」だけじゃダメ
ああ、そうだった。実は青井さんに相談があってね。
相談……ですか?
DXセキュリティプロジェクトが想定以上にうまくいっていることもあって、経営層からその理由を知りたいという話があってね。
で、ヒアリングをしたいと。
ま、まあ、そんなところだ。なので、青井さんが、今回のプロジェクトで学んだこと、感じたことをいろいろと教えてほしい。
そうですね。私自身もともとセキュリティの問い合わせ担当をやっていて、セキュリティって効果が見えにくいし、面倒なことも多いので、これを他部門の人と進めるのは大変だろうなと思っていました。
いやあ、私もそう思うよ。各部門からの抵抗が想像できて、とてもじゃないけどうまくいく気がしなかったなぁ。
おいっ!うまくいかないと思ってたんかーい。そんな難題の担当に、私を社長に推薦するなんて、やっぱり人が悪いなぁ。
そうだったんですね……。
いや、私がやったとしたらの話だよ。青井さんの共感力なら何とかなると信じていた。うんうん。
その不自然なうなずき、明らかに怪しい。
その共感力なんですけど、このプロジェクトを通じて、一つ気づいたことがあるんです。
ほう、なんだい。
今回は、工場セキュリティと、IoT製品のセキュリティと、それぞれ全然違う文化を持った部門の方と対策に取り組んだのですが、ただ相手の事情を理解して「共感する」だけじゃ、ダメだってことです。
ふむふむ。
急に課長が真剣な表情になる。そう、これは伝えないといけないことだ。
要は、私が最初に歩み寄って、各部門のビジネス事情を学び、共感はするのだけど、最終的には、それぞれの部門に、会社としての方向性、すなわち、経営の意志であるDXセキュリティ強化に「共感してもらう」必要があるということです。
なるほど、ただニコニコして相手の事情に配慮して、ひたすら折れているだけではダメだということだね。
たとえ、相手がセキュリティ対策なんて必要ないと言ったとしても、単なる感情論や押し付けではなく、きちんと論理立てて、相手にとってのリスクは何かを説明する必要があるということです。
まあ、その説明が難しいのだけどね。各部門からのフィードバックを聞いているけど、青井さんは本当によくやったと思うよ。
ありがとうございます。課長にもずいぶん助けていただきました。あと、まだ終わっていないので、これからもよろしくお願いします。
で、そのコツみたいなものはあるの?青井さんの好きな異世界ラノベにヒントがあるとか。
ええ、異世界ラノベでは、よく課長のような攻撃力の高い魔物がいるので、仲間のパーティーで撃破するんですけど、みな得意技があって、単独ではポンコツなんですが、組み合わせると強いというか。
うっ、その魔物の例えいる?
とにかく、セキュリティは総力戦なので、自分で全部やろうとせずに、いろんな人の協力を仰ぐことが大事ってことですね。逆に言えば、私のように専門家でなくても、進め方次第ではなんとかなるということです。
そうか、セキュリティ分かってないなーと上から目線で進めるよりは、一緒に考えていきましょうという姿勢がうまくいく秘訣(ひけつ)だと。
はい、それが本当に必要な共感力というか、共振力というか。
いわゆる橋渡しというよりは、橋を一緒につくるという感じか。共創に近いけど、共感してもらうことで波長を合わせる作業だから「共振」なのか。ふむふむ音叉(おんさ)みたいなものか。音叉葵か……。
そこまで考えて言ったわけじゃないんですが……。勝手に納得して、変なあだ名つけないでください。
いや、とても参考になったよ。ありがとう。
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