日産は半固体ではなく「全固体」電池、懸念される低寿命をNASAや大学と克服:電気自動車(2/3 ページ)
日産自動車は2022年4月8日、2028年度の実用化を目指す全固体電池の開発状況を発表した。
固体電解質は、硫化物系のLGPS(リチウム・ゲルマニウム・リン・硫黄)を使用する方針だ。「材料は硫化物系でほぼ確定だが、LGPSとひとくちにいっても、化学式としてみるといろいろなパターンがある。量産試作の中で調整する部分もあるので、現時点でこれと確定したわけではない」(日産自動車 常務執行役員 総合研究所所長の土井三浩氏)。
半固体電池の可能性を完全に排除したわけではない。「液系のリチウムイオン電池は進化の余地が大きく、電解液自体の改良が進んでイオンの輸送効率が高まる可能性がある。液体材料には課題が多いが、温度ロバストの高い電解液が開発されている。固体電解質にそうした電解液を混ぜる技術も出てきている。固体と液体のハイブリッドで課題解決できることも考えられる。そうした動向を注視していくが、アドバンテージの大きいオール固体がメインになる」(土井氏)
自動車メーカーの中には、全固体電池の寿命の低さがネックとなり、EVではなくHEV(ハイブリッド車)から搭載する方針の企業もある。
全固体電池の寿命について土井氏は「全固体電池は固体と固体の接触を保てるかどうかで寿命が決まる。日産としても寿命の課題はある。全固体電池を1個作るにも歩留まりに課題があり、歩留まりがよくない中で耐久試験に回した結果、割れてしまう。NASA(米国航空宇宙局)や国内外の大学との協力の中で、全固体電池の劣化をどう防ぐかに主眼を置いて研究開発を進めている。まだ100%の解決はできていないが、解決に向けた要素は積みあがってきた」と述べた。
全固体電池の課題と、日産のアプローチ
全固体電池が性能を発揮するには正負極材や固体電解質が均一に分散している必要がある。また、材料間で安定した界面の維持ができることも必須だ。これらの条件を満たす材料やセル設計、生産プロセスについて、NASAや国内外の大学と協力して計算科学、材料科学、解析を活用している。
材料の選定によっては、狙った性能に届かなかったり、生産が困難になったりする。そのため、日産自動車の開発と生産技術の両部門が議論しながら、扱いやすい材料や、生産プロセスとして追い込む余地を検証している。
こうした課題に対してさまざまな取り組みを進めている。
固体電解質と正極を接合するバインダーには、特殊なフィブリル状(繊維状)構造を採用する。微細な網の目で正極を固める。従来型のバインダーではリチウムイオンの出入りを妨げ、抵抗が増加するが、繊維状のバインダーを採用することにより、正極の構造を維持しながら高い電導度を持たせることができる。
正極は、バインダーで固める前に均一に混合されている必要がある。活物質が偏る(凝集する)とリチウムイオンの通り道を妨げるためだ。リチウムイオンの通り道はなるべく真っすぐであることが望ましく、均一な混合が不可欠だ。混合方法だけでなく、材料や表面のコーティング、溶媒、材料の配分や混合する温度、そのスピードなどさまざまな条件から凝集しにくい最適な仕様を検討する。
繰り返し充放電する中で正極活物質の表面が変質することへの対策も必要だ。表面が変質するとイオン電導性が悪化し、充電性能が下がってしまう。そのため正極活物質の表面のコーティング材料の探索もテーマの1つとなっている。イオン電導を妨げずに変質を抑制する材料を探す必要がある。負極と固体電解質、セパレーターに関しては、リチウム析出を防ぐこともテーマとなる。イオンの電動を妨げない材料でリチウム析出を防ぐ保護層を作らなければならない。
ただ、こうした材料の組み合わせは膨大になる。選ぶ材料によって、材料同士の電気的な反応や力学的な反応、化学反応、電気化学反応が変わるためだ。そこで、NASAやUCサンディエゴといったパートナーのデータベースを活用しながら、マテリアルズインフォマティクスで材料の検討を進める。例えば、UCサンディエゴとは正極材界面の劣化因子の特定に、NASAとは負極と固体電解質の界面劣化因子の特定に取り組んでいる。
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