検索
インタビュー

産業用スマートグラスはIT/OTの「結節点」になれるか、米国発新興企業の展望スマートファクトリー(1/3 ページ)

現在、産業用スマートグラスは国内外の多くのメーカーが展開している。その中で着実に国内販売実績を積み上げている企業がRealWearだ。2015年に米国で創業したスタートアップで、同社のスマートグラスは全世界で約5万台を超える販売実績を持っている。ただ、国内市場参入当初は顧客に導入を渋られていた時期もあったという。そこから販売台数を伸ばした要因と、産業用スマートグラス市場の今後の展望などを聞いた。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、今ではオフィス業務の大半がリモート化したという企業ももはや珍しくない。変化の波は、これまで「現場・現物・現実」の三現主義を重視していた工場にも押し寄せている。遠隔作業支援を行うスマートグラスへの関心度の高まりは、そうした変化の一端を表しているといえるだろう。

 現在、産業用スマートグラスは国内外の多くのメーカーが展開している。その中で着実に国内販売実績を積み上げている企業がRealWearだ。2015年に米国で創業したスタートアップで、同社のスマートグラスは全世界で約5万台を超える販売実績を持っている。国内では2018年に日本法人であるRealWear Japanを設立して以来、2021年までに500社以上が導入し、販売実績は5000台を超えた。

 国内市場参入当初は顧客に導入を渋られていたが、ある時、潮目が変わったという。販売台数を伸ばせた要因と、産業用スマートグラス市場の今後の展望などをRealWear Japan 代表取締役社長 伊藤信氏に聞いた。

作業者の手元を邪魔しない「リアリティーファースト」

 RealWearは現在、主力製品として「RealWear HMT-1(以下、HMT-1)」と防爆仕様の「RealWear HMT-1Z1(以下、HMT-1Z1)」の2種類のスマートグラスを展開している。HMT-1は主に製造業の工場などで、HMT-1Z1は石油精製場やプラント、エネルギー関連施設での活用を想定している。伊藤氏によると「HMT-1Z1は現時点で唯一の、防爆仕様を備えた産業用スマートグラス」である。


「RealWear HMT-1」(左)と「RealWear HMT-1Z1」(右)の外観[クリックして拡大] 出所:RealWear Japan

 着用者は小型ディスプレイとその周辺に搭載されたマイク、カメラ、内蔵のスピーカーを通じて、遠隔の作業管理者などと業務補助につながるコミュニケーションを行いながら現場作業を進められる。ディスプレイは作業者の手元の見通しを損なわず、視界の邪魔になりにくい、「『リアリティーファースト』をコンセプトにした設計が特徴だ」(伊藤氏)という。

 内蔵したマイクによる音声認識機能を搭載しており、デバイスをハンズフリー操作できる。手が油などで汚れて携帯やPCが扱えない場合でも、デバイスに触れることなく技術担当者に質問可能だ。また、RealWearのスマートグラスはAndroid OSを搭載しており、TeamsやZoom、Webexなど各種Web会議アプリケーションに対応する。音声のみのやりとりであれば、携帯電話とも通話できる。

コインパーキングでの活用事例も


RealWear Japan 代表取締役社長 伊藤信氏 出所:RealWear Japan

 現在、RealWearの製品は、製造業においては製品の納品前検査や、新人教育などで機器の操作方法を教えるなどの目的で導入が進む。この他、運輸業における作業員の監査やピッキング場所の確認で使われる他、建築業や医療現場などでの活用ニーズもある。

 「コインパーキングの集金担当者がスマートグラスを使い、集金を兼ねて機器のメンテナンスを行うというニッチな事例もある。コインパーキングは各所に点在しており、専門技術者の派遣コストがかかりやすいが、これを抑えられる。事例としては珍しいが、他の設備機器の保守点検業務など、フィールドサービスに生かせるアイデアであるとは思う」(伊藤氏)

イメージは「頭に着けるタブレットPC」

 RealWearは2021年12月8日(米国現地時間)に、新製品である「RealWear Navigator 500」を発表した。現在、国内での製品展開も進めている。対象ユーザー層はそのままに、HMT-1にハードウェア面でのアップデートを加えた。大きな変更点としては、カメラの画質向上、デバイスの小型化と軽量化、バッテリーのホットスワッピング機能の搭載などが挙げられる。


「RealWear Navigator 500」の外観[クリックして拡大] 出所:RealWear Japan

 カメラは従来のサムスン製の16万画素(16メガピクセル)の製品から、ソニー製の48万画素(48メガピクセル)のものに変更した。フルHDでの4倍以上のズームが可能で、さらにオートフォーカス機能とビデオスタビライゼーション機能なども搭載している。作業現場が暗い場合でも画面を明るく撮影できる「微光パフォーマンス機能」も備える。カメラは着脱可能で、故障時のデバイス交換も容易。2022年4月頃には赤外線カメラをリリースする予定で、「橋梁や建物などに使われるコンクリート部材の保守点検作業時には付け替えるなど、用途に応じて使い分けできるようにする」(伊藤氏)という。


ソニー製のカメラを採用[クリックして拡大] 出所:RealWear Japan

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

       | 次のページへ
ページトップに戻る