メタバースは視界良好、メガネ型HMD「MeganeX」が見る未来:小寺信良が見た革新製品の舞台裏(20)(3/5 ページ)
「CES 2022」で話題をさらったのが、Shiftallのメタバース用HMD「MeganeX」だ。従来HMDといえば、左右がつながったボックス型を思い浮かべるところだが、まさにメガネのように左右が分離したスタイルは、多くの人に驚きをもって迎えられた。Shiftallの岩佐琢磨氏に、MeganeXの開発経緯やメタバースの未来について聞いた。
「左右で分離する構造って、めっちゃ面倒くさい」
―― MeganeXのハードウェアとしての話を聞かせください。「目を覆う」という目的で最もシンプルな形状は、ダイビングなどで使われる「水中マスク」だと思うんです。両眼を覆う筐体部が一体になっていて、現在販売されているVRやAR関連のHMDで広く採用されています。一方で、両眼を覆う部分が左右で分かれている競泳で使うような「水中メガネ」型もあり得るはずです。MeganeXはこの水中メガネ型であり、一般的な視力矯正用のメガネと同じ感覚で装着できることがユニークなわけですが、これまでどこもやらなかった。これはなぜなんでしょう。
岩佐 左右で分離する構造って、めっちゃ面倒くさいんですよね。くっつけた方が楽なんです。
―― まあ、1枚の基板で展開できますもんね。
岩佐 基板もそうですし、機構的に全部くっつけちゃうと、剛性をすごく簡単に持たせることができるんです。剛性がないと、右目と左目をひねる方向に力がかかったときに、液晶パネル面の角度が変わりますよね。そうすると非常に気持ち悪い絵になってしまって、まともなVR体験ができなくなってしまうんです。
あと、遮光の問題もあります。光が入ってこない構造を作ることも、こういった一体型構造の方がやりやすい。プラス、コスト面ですね。部品点数も少なくて済むし、1個の金型でバーンと全部作っちゃいますんで、左右つないだ形状が一番リーズナブルなのは確かです。
ただ、小型化しよう、軽量化しよう、あるいはメガネのような装着感を実現していこうということを考えると、これまでのアプローチでは難しいということで、あえてイバラの道に行ったという。
―― 小型化や軽量化という方向性では、やはりこのアプローチで行くしかないということですか。
岩佐 いや、小型化、軽量化は別のアプローチもあります。ただ、スタイリッシュさみたいなところを求めていくと、メガネスタイルってのは重要です。あともう1つ、一体型だとIPD(Inter Pupillary Distance:瞳孔間距離。顔の形や大きさの違いにより個人差がある)の調整機構を入れるのが難しいんですよね。
特に最近の製品では従来の「フレネルレンズ」に代わって「パンケーキレンズ」が使われていて、これだと目と目の間隔を動かす機能を入れていくっていうのはちょっと難しかったりします。
そこでこのMeganeXのように鏡筒が独立していて、OLEDパネルごと動くという構造を作ることによって、IPD調整のあるハイエンドなヘッドセットが軽量でできる、ということです。ただこれは本当にイバラの道ですね(笑)。
―― さらにこのメガネスタイルでは余分な空間がほとんどないので、いろんなセンサー積むスペースがなくて大変なんじゃないかと思うんですが……。
岩佐 大変ですよ。基板をまず2枚に分けなきゃいけないのと、排熱が大変ですね。一体型は大きい空間があるんで、いかようにも熱を移動させてファンなどで排熱できるんですけど、これは大変でした。
さらに2つの鏡筒に部品が分散していて、それらの間を非常に高速な信号が行き来するんですけど、それらはこの細いブリッジ部を通さないといけない。コストのかかる配線になりますし、設計も大変だしで、わりかし苦労しました。
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