滑らかな全方向移動と高精度な衝突判定、日本精工がロボット関連で2つの新技術:協働ロボット(2/2 ページ)
日本精工は2022年2月24日、ロボット領域における新たな価値創出につながる技術として滑らかな全方向移動を実現する「アクティブキャスタ」と高精度な衝突検出を可能とする「協働ロボット用アクチュエータ」を開発したと発表した。両技術ともに、2022年3月9〜12日に東京ビッグサイトで開催される「2022 国際ロボット展(iREX2022)」での出展を皮切りにユーザーニーズを探り、製品化への検討を進める方針だ。
高精度な検出で衝突力を緩和する「協働ロボット用アクチュエータ」
もう1つの開発技術である協働ロボット用アクチュエータは、横浜国立大学 教授の藤本康孝氏が発明した高い逆作動効率を持つバイラテラルギアを搭載することで、逆作動効率を20%(従来比)向上した協働ロボット用のアクチュエータである。
従来の協働ロボットでも衝突安全検知機能などは搭載されているが、衝突検出誤差により衝突検出値が大きくなる場合が多く、逆に小さい場合には検出できない場合も存在し、安心を与えられない課題があった。これにより衝突力を低減させるためにロボットの動作速度を制限せざるを得ず、生産性を上げられないという協働ロボットそのものの課題も生み出してしまっている。
新たに開発した協働ロボット用アクチュエータはこの衝突時に発生する逆作動時の負荷トルクをより正確に検出できるようにしたことで、小さな力でもアクチュエータ自身で正確に衝突を検知できるようにした。具体的には、従来減速機によるトルク検出誤差が68%存在したのに対し、バイラテラルギア減速機によるトルク検出誤差は28%に低減でき、約40%の低減を実現したという。これにより、協働ロボットの安心・安全とともに生産性向上にも貢献する。
尾崎氏は「例えばトルク検出誤差が68%ある場合は外の力の約3割しか正確に検出されず、約7割が内部に伝わっていないということになる。これが誤差28%になれば、約7割は正確に検出できるようになり、アクチュエータの外で何が起こっているのかを把握できるようになる」と価値について述べている。
また、NSK 新領域商品開発センター 所長の小林誠一氏は「協働ロボットの衝突については外部にセンサーを付ければ簡単に解決できる。しかし、どうしても協働ロボットそのものが大型化し、センサー分の価格も高額になるため、ロボットメーカー各社は何とかアクチュエータのトルク値の分析で解決できないかと頭を悩ませているケースが多い。しかし、そのトルク値が正確に把握できなければ衝突安全性は確保できない。協働ロボット用アクチュエータはこれを解決できる技術だと考えている」と付け加えている。
今後はアクティブキャスタ同様にニーズを検証しながら製品化を進めていく方針だ。製品化に向けては「内部の伝達効率を上げるということがこの技術のポイントであるために、歯車の加工精度を上げることが必要になる。製造面の課題を解決するためのさまざまな開発も必要になるだろう」と尾崎氏は述べている。
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