待ったなしの脱炭素、難題の「スコープ3」は業界全体で取り組み強化を:MONOist 2022年展望(3/3 ページ)
製造業をはじめ、産業界へのCO2削減に向けた取り組みの強化を求める社会的な声が強まっている。多くの企業がカーボンニュートラル達成に向けた自社の取り組みを加速させ、削減目標を外部に発信している。製造業を取り巻く現状と今後の課題を、概略的ではあるが整理しよう。
スコープ3対策は業界内外の連携で進むか
もっとも、自社内だけでの取り組みではサプライチェーン全体のカーボンニュートラル化は達成できない。今後、製造業がカーボンニュートラル達成を目指す上で解決しなければならないのが、GHGプロトコルが定めるCO2算定基準の内、「スコープ3」に当たる領域である。
スコープ3には、自社による直接排出であるスコープ1や、他社から供給された電気や熱による間接排出であるスコープ2以外の全ての排出量が含まれる。対象となるのは、購入した製品やサービスの製造工程、部材、製品の輸配送、販売した製品の加工、使用、廃棄時における排出量など非常に幅広い。従業員による出張や通勤なども含まれる。
製造業のCO2排出量はスコープ1、2と比較して、スコープ3が占める割合が概して多く、全体の8〜9割を占めるケースがほとんどだ。自社内の省エネ化の取り組みだけでは削減可能なCO2排出量には限界がある。このため、製造業がサプライチェーン全体でのカーボンニュートラル達成を目指すのであれば、スコープ3の排出量を徹底的に削減しなければならない。
大きな課題もある。先述の通り、スコープ3には製品やサービスの調達先に加えて、製品の輸配送に関わるトラックや飛行機、船舶などによるCO2排出が含まれるなど、多くの企業が関与する。CO2削減に向けた取り組みを進める上では、まずこうした自社以外の排出量データを可能な限り可視化するところから始めなければならない。それには各企業が自社のCO2排出量を正確に測定、管理し、必要に応じて共有し合う仕組みづくりが必要だ。現状を見る限り、こうした仕組みが広く企業間で導入されるにはまだ時間がかかるように思える。
こうした仕組みづくりは1社だけでなく、業界全体で、時には他業界と連携して取り組む必要がある。実際にこうした動きも生まれつつある。電子情報技術産業協会(JEITA)は2021年10月19日に「Green x Digitalコンソーシアム」を設立した。その活動内容の1つには、企業のサプライチェーン全体でのCO2排出量の見える化に向けたプラットフォーム構築」が含まれている。業種や企業規模による課題感の違いに十分配慮した上で、実際のデータ取得方法や共有方法といった枠組み作りも可及的速やかに進むことを期待したい。
CO2排出量の可視化を進める上では、工場や事業所、オフィスなどのデジタル化も重要になる。これらは工場内の設備稼働や生産状況などをIoT(モノのインターネット)デバイスで可視化してモニタリングする、スマートファクトリー化の取り組みと並行で進んでいくだろう。
企業間での協力や連携も欠かせない。例えば、製品の輸配送に関しては、同業の複数社による共同配送の取り組みなどが各所で見受けられる。高まる脱炭素への社会的要請を業界全体の課題と捉えて、協働し合える範囲を特定し、連携し合うことが大切だ。
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