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待ったなしの脱炭素、難題の「スコープ3」は業界全体で取り組み強化をMONOist 2022年展望(1/3 ページ)

製造業をはじめ、産業界へのCO2削減に向けた取り組みの強化を求める社会的な声が強まっている。多くの企業がカーボンニュートラル達成に向けた自社の取り組みを加速させ、削減目標を外部に発信している。製造業を取り巻く現状と今後の課題を、概略的ではあるが整理しよう。

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 2050年までに、CO2をはじめとする温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする――。当時内閣総理大臣だった菅義偉氏が2020年10月26日の所信表明演説で、いわゆる「カーボンニュートラル宣言」を行ってから、1年と数カ月が経過した。今や、さまざまなメディアで「脱炭素」「カーボンフリー」「グリーントランスフォーメーション(GX)」といった言葉を聞かない日はなくなったと言っていい。

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 地球温暖化に対して産業界がより大きな社会的責任を持つよう求める声も強い。とりわけ、他産業と比較してCO2排出量が多い製造業に対しては厳しい視線が注がれているように感じる。製造業を取り巻く事業環境も変わりつつある。業界内では、大手製造業がサプライヤーにも脱炭素の取り組みを強く求める動きが出ている。また、投融資に関して環境リスク評価を重視する方針を打ち出した金融機関もあり、環境負荷低減への取り組みの遅れが、そのまま大きな事業リスクになりかねない状況だ。

 この中で製造業各社は、従来のCSR(企業の社会的責任)活動の枠を超えて、より具体的な削減目標を社外に発信するとともに、現実性のある環境負荷低減策を模索し、展開することが急務となっている。以下では、製造業におけるカーボンニュートラル達成に向けた課題と現状を、概略的ではあるが整理していく。

CO2排出量は減少傾向だが、「実質ゼロ」には遠い

 そもそも製造業は現時点でどの程度、CO2を排出しているのか。

 環境省の年次レポートによると、2019年度の産業部門においては、工場などからのCO2排出量は熱配分後排出量(※1)で3億8400万トンだったという。この内、約9割が鉄鋼業や化学工業、機械製造業、窯業・土石製品製造業、パルプ・紙・紙加工品製造業、食品飲料製造業など製造業から出たものだ。

※1:「発電及び熱発生に伴うエネルギ−起源のCO2排出量を、各最終消費部門の電力及び熱の消費量に応じて、消費者側の各部門に配分した排出量」のこと(「2019年度(令和元年度)温室効果ガス排出量」より)

 業種別に見ると、最も排出量が多いのは鉄鋼業である。産業部門における年間排出量の約40%に当たる、1億5500万トンを排出している。次いで化学工業が約15%で5600万トン、機械製造業が約10%で4000万トンと続く。


産業部門における業種別排出量の割合[クリックして拡大] 出所:「2019年度(令和元年度)温室効果ガス排出量」より

 ところで、産業部門のCO2排出量は前年度と比較すると、約1520万トン減少している。速報値ではあるが2020年度は3億5300万トンとなっており、前年度比で約8%程度減少している。実は、産業部門のCO2排出量は2013年度以降減少を続けている。排出量は製品生産量によっても変動するため一概には言い切れないが、企業による省エネ化などの排出量削減に向けた取り組みが一定の効果を上げている様子がうかがえる。


CO2排出量自体は減少傾向に[クリックして拡大] 出所:「2019年度(令和元年度)温室効果ガス排出量」より

 だが、この程度の減少ペースでは、2050年までにカーボンニュートラルを実現することが非常に困難であることは明白だ。植林などによるCO2回収や再利用などの取り組みを通じて排出量を相殺する取り組みも必要だが、まずは大本の排出量を大幅に削減する必要がある。

 具体的な取り組みとしては、2021年6月18日に経済産業省が公開した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」において、ボイラーからヒートポンプ給湯器や電熱線ボイラーに切り替えるなど、設備の電化などを主な対策として取り上げている。この他にも、例えば鉄鋼業においては水素還元製鉄の採用を目指すなど、今後開発進展が見込まれる新規技術や代替素材の導入などが想定されている。ただ、こうした新規技術の開発、導入がどれほどのペースで進むか、また導入した場合の経済的コストがどの程度になるかは未知数だ。

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