DXを推進するアステラス製薬、「人とデジタルのベストミックス」で差別化図る:製造ITニュース(2/3 ページ)
アステラス製薬はがDXに向けた取り組みを説明。同社は2021年5月に2021〜2025年度の中期計画「経営計画2021」を発表しているが、DXは達成の要の一つに位置付けられており、注力していく方針だ。
細胞創薬プラットフォーム「Mahol-A-Ba」の実力
アステラス製薬でDXを主に担っているのは、須田氏が率いる情報システム部門の他、高度なデータ分析を行うAIA部門、新規事業の立ち上げと確立を手掛けるRx+事業創製部の3つの部署だ。会見では、既存ビジネスの革新を進めている、情報システム部門とAIA部門の取り組みが事例として発表された。本稿では、創薬と製造のプロセスにおけるDX取り組みを中心に紹介する。
創薬の初期段階では、標的と強く結合し高い薬理効果を持つ化合物を見つけ出す「化合物スクリーニング」のために、極めて多数の化合物の評価をシミュレーションで行う必要がある。従来の社内サーバを用いた評価は社内ライブラリを基に百万種程度にとどまっていたが、現在検討中のAWS(Amazon Web Services)のクラウドとAI(人工知能)技術を組み合わせた「超大規模バーチャルスクリーニング」を用いれば、社内ライブラリに加えて論理的に合成可能なライブラリ登録されていない化合物を含めて数億種の評価を行える見込みだという。効果としては、従来環境で1〜2年かかっていた計算を、最短1〜2週間に短縮できる可能性がある。
化合物スクリーニングでの評価に適合したヒット化合物が得られても、そこから活性や薬物動態などの課題をクリアして、実際の医薬品候補化合物として進化させなければならない。アステラス製薬では、人×AI×ロボットを統合した“Human-in-the-Loop”型の医薬品創製プラットフォームを開発することで、開発期間の短縮を実現しようとしている。機能としては、AIがヒット化合物に似た構造の化合物を多数デザインした上でその特性を予測し、予測結果を独自スコアによるランキングを作る。このランキングの提案を受けた研究者が、さまざまな要素を勘案した総合的な判断から選んだ医薬品候補化合物をロボットによる自動合成に掛けて、AI×ロボットによる細胞アッセイ(細胞検体による効果測定)を行う。須田氏は「AIが連続性を持った取り組みは得意だが、意思を持った非連続性を組み込めむには研究者の発想が必要だ。いわゆるセレンディピティを生み出すためにも、“Human-in-the-Loop”として人が関わらなければならないと考えている」と強調する。同プラットフォームは2021年から稼働しており、ヒット化合物から医薬品候補化合物の同定までをこれまで2年かかっていたところを最短で約半年に短縮できるという成果を確認している。
さらに、細胞創薬プラットフォームでは、ロボットとAIを活用した「Mahol-A-Ba(まほらば)」の運用を始めている。iPS細胞をはじめとする細胞培養の研究は操作に熟練が必要だが、熟練の研究者がそれほど多くないという問題がある。その熟練の研究者も、毎日全く同じ操作を繰り返して同じ結果を出すことは難しい。そういった繰り返し作業はロボットが得意であると考え、まず導入したのが匠の腕ロボットとなる「まほろ」である。さらに、先述した細胞アッセイに用いているロボットを組み合わせることで匠の眼ロボットも実現した。これら匠の腕と匠の眼のロボットをAIによって制御するプラットフォームがMahol-A-Baである。これまで研究者の手作業では一度に数十程度しか評価を行えなかったが、同プラットフォームを使えば数千〜数万の評価を同時に進められる。また、熟練者以上の高精度、高再現性データで行えることも重要なポイントになる。
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