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「多様性の経済」という価値の軸を、中小製造業が進むべき方向性とは「ファクト」から考える中小製造業の生きる道(11)(2/3 ページ)

苦境が目立つ日本経済の中で、中小製造業はどのような役割を果たすのか――。「ファクト」を基に、中小製造業の生きる道を探す本連載。最終回となる今回は、連載の主題でもある「中小製造業の生きる道」について見ていきます。

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「多様性の経済」とは

 日本は今後も人口が減少していくことがほぼ確実です。そのため、人口が増えていくことを前提にした経済成長の在り方は通用しなくなっていきます。一方で、人口が減っていっても、1人当たりの生産性や所得水準を上げていき、一人一人がより豊かになっていく経済の在り方は実現可能なはずです。この方向性に向けて、私たち企業ができることは、今までの「規模の経済」一辺倒の経済観を改め、「多様性の経済」を少しずつ育んでいくことではないかと考えています。

 本連載でも何度も言葉では登場させてきましたが、ここであらためて規模の経済と多様性の経済の説明を試みたいと思います。

 「規模の経済」は、資本や労働者を集約し、生産の効率化を図り、安価に大量にモノやサービスを生み出し成長していく経済観です。大量に生産し販売するほど、原価に占める固定費や開発費の割合が下がり効率化されていきます。また、大規模に安価なものを生み出すために、効率的な仕組みを構築します。このような経済観の中で、労働者は「より安価な労働力」であることを求められがちです。そして、常に大量に消費するより大きな「市場」を求めていきますので、必然的にグローバル化が進んでいき、世界規模での競争にさらされていきます。

 製造業では特に、このような規模の経済が重視され、流出一方のグローバル化が進んできたことは第7回で取り上げた通りです。規模の経済の下では、一定品質のモノやサービスが安価に入手できますので、消費者としては恩恵を受けます。

 一方で、日本においては、その消費者でもある労働者は貧困化していきますので、購買力は下がっていきます。現在の日本では「消費者の購買力=需要」と「モノやサービスの供給量」が釣り合っていません。大規模化して大量に作るほど自働化が進み、労働力が不要になるジレンマも抱えています。

 このように需要が増えないところで規模の経済を追っても、行き詰まるだけです。これまで見てきた日本の停滞を表す統計データや、図1の製造業の立ち位置を見ても明らかではないでしょうか。付加価値の高い仕事でも、規模の経済の価値観に引っ張られて、必要以上に安くしてしまっているビジネスも多いと感じています。

 これに対して「多様性の経済」は、ニッチな分野で多品種少量の多様性のあるモノやサービスを、適正価格で生み出していく経済観です。目先の利益を追うよりも、労働者の生み出す仕事の価値=付加価値を重視します。

 規模の経済では安定した品質レベルの代わりに、画一化が進みますので、その事業領域の隙間は広がっていきます。実際にビジネスをしていれば、ニッチな分野で、高付加価値な領域が非常に多いことに気付いている方も多いのではないでしょうか。このような領域でこそ「ある特定分野で強みを持つ中小企業」が存在感を発揮し、適正付加価値でビジネスが成立しやすいのではないかと考えます。実際に日本でも生産財などの特定領域で強みを持つ企業は多く存在しています。

 ただし、この多様性の経済が適用できるのは、その分野で突出した強みのある製品や技術を持つ企業だけです。当然、誰でもできる仕事というわけではありませんので、労働者への訓練や技術投資が必要となります。つまり、「人材や技術への投資」が必要となり、労働者はコストというよりも、付加価値を稼ぐための「投資対象」だといえます。

 人材投資により労働者の稼ぐ付加価値を増やせば、その成果に応じて対価(=給与)も増やしていくことができます。この労働者は消費者でもありますので、給与所得の増えた消費者は当然消費を増やしていくことになり、望ましい経済成長の在り方へとつながっていきます。

 規模の経済と多様性の経済は、このように役割や領域が異なる経済観となります。どちらがよいというわけでもなく、役割分担しつつ、バランスを取っていくことが重要です。

 表1に両者の特徴をまとめてみます。

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表1 「規模の経済」と「多様性の経済」の比較[クリックで拡大]出所:筆者が作成

 日本国内では中小零細企業が労働者の7割を雇用し、まさに経済活動の主役だといえます。ただ、中小企業経営者の思考が「規模の経済」一辺倒になっているような状況に危惧を覚えます。

 本当は「多様性の経済」に属するビジネスのはずなのに、「規模の経済」の価値観に引きずられて自ら価格競争をしているケースはさまざまなところで目にするのではないでしょうか。

 消費者の購買力が下がっていて「安くないと売れない」という企業側の事情も分かりますが、消費者でもある労働者を安く雇用しているのも企業です。この「自己実現的な経済停滞」を打破していくには、企業自身が変化していく必要があるのだと考えます。

 現在は、国内のビジネスで「規模の経済」と「多様性の経済」がうまく切り分けられおらず、ごちゃまぜの状態になっているように感じます。もちろん個々の企業で中小製造業として置かれている立場も異なってきますが、うまく「多様性の経済」の考え方を取り込めるところから進めていってはどうでしょうか。

 国内経済を基盤として、企業と家計が連動して成長していく「通常の経済」を取り戻していく方向性として、私たち中小企業(特に製造業)が「多様性の経済」という軸を重視し、国内で循環して成長できる経済へと生まれ変わっていくことが必要だと考えます。

 短期的な利益を追うと「合成の誤謬(ごびゅう)」によって国内経済が収縮してしまいますが、長期的に付加価値を増やしていくことを考えればゆっくりと国内経済も成長していけると見ています。自社のビジネスの付加価値を上げ、従業員への対価を上げていくことは、長期的に見れば継続的な利益を生み続ける最も「合理的な企業活動」だといえるのではないでしょうか。

 多くの企業経営者がこの考えを共有できれば、「合成の誤謬」も回避できるように思います。それを実現する力を持っているのが、経営者が長期的視野で意思決定し、利益よりも付加価値を、株主よりも労働者を重視できる「中小企業」であると信じています。

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