Wi-Fi 6とArmMCUが鍵に、ルネサスの産業オートメーションとモーター制御の戦略:組み込み開発ニュース(2/2 ページ)
ルネサス エレクトロニクスは「IIoT Growth Talk」と題したオンライン会見を開き、同社の産業・インフラ・IoT(IIoT)向け事業の中から産業オートメーションとモーター制御の分野にフォーカスして、市場の概況や同社ビジネスの成長ポテンシャルなどについて説明した。
BLDCモーターの需要拡大を期待
モーター制御のルネサスの顧客も、産業オートメーションと同様に国内外の大手メーカーの名前が並ぶ。日本電産の北米事業(旧エマソン)、ワールプール、ボッシュ、ハイアール、ダイキン工業、日立製作所などだ。
モーターには、BLDC(ブラシレスDC)モーター、ACサーボモーター、ファンモーター、ステッピングモーターなどさまざまな方式がある。これらの中で、チッティペディ氏が今後の需要拡大を期待しているのがBLDCモーターである。「このBLDCモーターへの移行と、サステナビリティへの強い意識による効率向上への要求によって、モーター制御に関する需要は今後も拡大を続けるだろう」(同氏)。
ルネサスはモーター制御向けのMCUでは、ローエンドからミドルレンジ、ハイエンドに至るまでカバーしてきた歴史がある。しかし、2010年以降に大きなトレンドとなったArmMCUへの対応については競合企業に先行されており厳しい状況にあった。その後、2019年にローパワーとメインストリームでArmMCUの「RAファミリー」を投入し、2020年にはハイパフォーマンス品の投入で全体を網羅。2022年にはさらなる高性能品を投入するなどして「競合を上回っていく」(チッティペディ氏)という意気込みだ。
Arm系MCUの急速な展開もあって、モーター制御MCUのシェアでトップのポジションも維持できている。産業設備向けで24%、家電・空調向けで29%、モーター制御MCU全体で20%台を確保しているという見立てだ。
また、モーター制御向けの事業成長では。MCUに加えてモータードライバも重要な役割を果たす。先述したBLDCモーターへの注力を進める中で、位置センサーが不要なセンサレスBLDCモーターを可能にするためで、制御電圧を2021年の30Vクラスから2024年には110Vまで広げていく方針である。チッティペディ氏は「センサレスBLDCモーターはBOMコストを低減できるなどメリットが大きく、2021年のデザインインは2019年比で9倍にまで拡大している」と述べる。
ルネサスの2020年のモーター制御売上高のうち88%をMCUが占めており、産業オートメーション以上にMCU偏重になっている。ただし今後は、産業オートメーションと同様にアナログやパワーとの組み合わせ提案、センサレスBLDCモーター需要に対応するモータードライバの拡販などによって、バランスの取れた構成に変えていく方針だ。
富士経済の調査によれば、モーター制御向け半導体の市場規模は2020〜2025年の6年間で年平均9%で成長する見込み。これに対して同市場におけるルネサスの売上高は、年平均18%の成長となり、シェアも2020年時点の7%から2025年に10%に拡大する見込みである。
最後にチッティペディ氏は、IIoT向け事業の成長に向けて期待の大きい市場としてロボットとドローンを挙げた。市場規模は、ロボットが2023年に3億7000万米ドル、ドローンが2025年に3億5400万米ドルまで拡大するという。「ロボットは産業オートメーションとモーター制御、ドローンはモーター制御の成長に大きく関わる。これらの新たな製品市場の成長も含めて、ルネサスのIIoT向け事業は市場を大きく上回る成長が可能で、粗利益率で60%、営業利益率でも30〜35%を達成できるだろう」(同氏)としている。
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