ボルトの緩み対策:設計者向けCAEを使ったボルト締結部の設計(9)(1/5 ページ)
部品の固定(締結)のために使用する“ボルトの設計”をテーマに、設計者向けCAE環境を用いて、必要とされる適切なボルトの呼び径と本数を決める方法を解説する。最終回となる連載第9回では、“ボルトの緩み対策”について詳しく取り上げる。
連載第3回で「締め付けたボルトには初期応力が作用していて破断寸前で、それに変動荷重による応力が重畳されるので、締め付けたボルトが耐える変動荷重は小さく、一方、締め付けていないボルトが耐える変動荷重は大きい」という発想をぶっ飛ばし、実際はこの反対で、締め付けたボルトの方が大きな変動荷重に耐えると述べました。また、連載第1回では、ボルトは疲労に対して案外タフだというお話をしました。
しかし、これらはボルトが適切なトルクで締め付けられている場合に限ります。ボルトが緩んでいると、疲労破壊しやすくなります。実際に、緩みが原因でボルトが破断した事例がいくつも報告されています(参考文献[1][2])。本連載の最後に、ボルトの緩み対策について触れておきたいと思います。
戻り回転による緩み
ボルトの緩みは、以下の2種類に分類されます。
- 戻り回転による緩み
- 戻り回転によらない緩み
戻り回転による緩みから説明します。そのメカニズムは解明されていて(参考文献[3][4])、軸直角振動や軸直角荷重が作用して、ボルトの頭ないしはナットと被締結体との間で滑りが生じると、ボルトないしナットが回転する現象で、この結果、緩みが生じるというものです。図で表現すると図1のようになります。
図1左側のように、ナットと被締結体との相対変位があるとボルトは緩みます。図1右側の場合はどうでしょうか。被締結体同士は滑っていますが、ボルトが弾性変形していてナットと被締結体との相対変位はありません。このような場合、ボルトの緩みはないとされてきました。
しかし、2005年に変化がありました。図1右側、つまりナットと被締結体との相対変位がなくても、ボルトはほんの少しだけ(実験では観測できないくらい)緩むということが、有限要素法を使って示されました(参考文献[5])。これまでの常識が覆された論文です。以上のことから、構成要素に滑りが生じるとボルトの緩みが発生すると考えておいた方がよいといえます。
戻り回転による緩み対策
ボルトの緩み対策は、軸力を高めることと、高めた軸力を保持して摩擦力を発生させ続けることが第一です。また、戻り回転による緩みに限定すれば、ボルトないしナットの回転を強引に止めてしまえばいいわけで、最も簡単なものに図2に示すような割りピンがあります(図2)。その他にも接着剤でくっつけてしまう方法やUナットなど、いろいろな製品が出ています。戻り回転による緩み対策は以上です。
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