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背骨の形が「見える」眼鏡、レントゲンいらずの姿勢矯正デバイスに医師も期待イノベーションのレシピ(1/2 ページ)

「美姿勢メガネ」は眼鏡に後付けで搭載する小型デバイスで、着用者の背骨形状をリアルタイムで可視化する。従来、背骨の形はレントゲンなどでしか把握できなかったが、これを日常的に行えるようにする。デバイスの仕組みと開発目的を聞いた。

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 ダイソンのチャリティ団体であるジェームズダイソン財団は、次世代のデザインエンジニアの発掘と育成、支援などを目的としたエンジニアリングアワード「JAMES DYSON AWARD(以下、JDA)」を2005年から毎年開催している。工学を研究する学生などを対象とした国際的な賞で、日本や米国、英国など世界28カ国以上の国と地域から毎年多数の応募がある。

 先日、日本国内での最優秀賞作品を含む入賞作品が発表された。その中に、筆者が興味を引かれた作品があった。国内準優勝を受賞した「美姿勢メガネ(B.S.M)」である。加速度センサーなどを搭載した小型デバイスで、眼鏡に搭載することで着用者の背骨形状を判定できるようにする。東北大学医学部整形外科教室との共同研究の下で開発を進めており、医学的根拠に基づいた測定が可能だという。


美姿勢メガネ(緑色のデバイス)の外観[クリックして拡大] 出所:weCAN

 背骨形状をレントゲンなどを使わずに、日用品である眼鏡で測定するというのはとても手軽な手法に思える。具体的にどのような仕組みで背骨形状を推定するのか。美姿勢メガネを開発した、weCAN 代表取締役社長の高橋佑生氏※1に話を聞いた。

※:本来の「高」は「口」が「目」になっているはしご高

加速度センサーとToFセンサーで測定

 近年、PCやスマートフォンなど情報機器の普及に伴い、いわゆる「ストレートネック」など、人々の姿勢の悪化が社会問題化している。不良姿勢の常態化は頸部(けいぶ)や胸部、腰部など身体の各部位に負担を掛け、結果的に肩こりや頭痛、その他、各種疾患を引き起こす可能性がある。美姿勢メガネはこうした「現代病」を解消したいという課題意識に基づいて、高橋氏が開発を続けているデバイスだ。


weCANの高橋氏

 美姿勢メガネには加速度センサーとToFセンサー(Time of Flight)、小型バッテリーが搭載されている。これによって着席している着用者の「頭部傾斜角」と「視距離(対象物と着用者の目までの距離)」の2要素を計測し、独自開発のアルゴリズムによって、背骨形状(頚椎、胸椎、腰椎)の変化を高精度で推定する。

 推定結果はスマートフォンの専用アプリケーションを通じてリアルタイムで確認できる。アプリ上では頚椎、胸椎、腰椎の現在の形状に対するスコア値が表示される。例えば、情報機器のディスプレイと顔の距離が近すぎるなど着用者が好ましくない姿勢を取っている場合は、低スコアを示して、着用者の自発的な姿勢修正を促す。


アプリケーション画面のデモ(画像内デバイス、アプリケーションはいずれも試作品)[クリックして拡大] 出所:weCAN

 デバイスを構成する機器はいずれも汎用品で、総重量は8.4g。「見た目は少し大きく見えるが、着用したら気にならない程度の重量感」(高橋氏)だという。

 「従来、背骨形状はレントゲンなどを使わなければ測定することは困難だった。しかし、美姿勢メガネを用いれば、自宅や会社のオフィスで自身の背骨形状の変化を手軽に把握できるようになる。将来的には個々人の肩こりや腰痛などの発症リスクが高精度で予測可能になり得る。『背骨健康市場』という新しい市場の開拓にもつながる」(高橋氏)


背骨形状と頭部傾斜角(θ)、視距離(d)の関係[クリックして拡大] 出所:weCAN

 現在、高橋氏は2020年に設立したweCANを通じて、美姿勢メガネの製品化に向けた取り組みや共同研究開発を進めている。美姿勢メガネはテレワークの一般化やプログラミング教育の拡大を背景に、多くの需要があると考えているという。製品発売は2022年初頭を予定している。

アルゴリズム開発に東北大医学部が協力

 美姿勢メガネの最大の技術的特徴は、背骨形状を推定するアルゴリズムにある。同アルゴリズム開発に当たって高橋氏は、背骨形状と頭部傾斜角、視距離の間にどのような相関関係があるかを、東北大学医学部整形外科教室の協力を経て医学的に検証している。

 「検証を通じて、眼鏡から取得できる情報だけでも、背骨形状についてかなり高精度に推定できることが判明した。例えば、頚椎の角度と頭部傾斜角は0.98以上の相関係数を示しており、かなり密接に関係していた。当然に思えるかもしれないが、この知見だけでも肩こりのメカニズム解明につながる可能性がある。また、頚椎の角度は腰の角度と強い相関がある。これ自体は1980年代の先行研究でも指摘されていたが、新たに胸椎とも非常に強い相関にあることを示せた。これらの知見を基に、2次関数の形式で背骨形状を推定できるようにした」(高橋氏)

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