電動車100%へ330億円を投資した日産・栃木工場、開発中の燃料電池は定置用で活躍:電気自動車(2/4 ページ)
日産自動車は2021年10月8日、330億円を投資して栃木工場(栃木県上三川町)に導入した次世代の自動車生産の取り組み「ニッサンインテリジェントファクトリー」を公開した。日産自動車 執行役副社長の坂本秀行氏は「複雑かつ高度なクルマをつくるための、変動に強い生産現場と生産技術は明日の日産の飛躍の要になる」と生産領域に投資する重要性を語る。
駆動系、内装、ボディー、検査まで自動化技術満載
新しい生産技術は、アリアの生産に当たって栃木工場の一部で取り入れた。既存の生産車種のラインは残されている。
既存の建屋に導入した生産設備などもある一方で、塗装ラインは建屋から一新した。従来のように水を使用せずに塗料ミストを回収するため、塗装ブースだけでなく空調も含めて従来とは異なる設備を導入したためだ。新たな塗装ラインでは、ボディーとバンパーの塗装や焼き付けを一体で行う。塗料ミストは粉末の石灰石で回収し、100%リユースする。従来のように塗装ブースの排気を水に通さないため、温度や湿度がコントロールされたブース内の空気を再利用できるようにした。
栃木工場に導入した新たな生産技術としては以下のようなものがある。生産を止めて建屋からつくり直すなど大きな変更が生じるため、今後、他の工場に下記の全てのシステムや工程を一斉に導入するのではなく、導入できるものから部分的に取り入れる。
- 駆動系
- パワートレインの一括搭載
- サスペンションリンクの自動締め付け、アライメントの自動調整
- 磁石レス界磁モーターの巻き線自動化
- 内装
- ヘッドライニングの自動組み付け
- コックピットモジュールの自動組み付け
- ボディー系
- ディンプル溶接
- ボディーとバンパーの一体塗装、塗装のドライブース
- 塗装の外観自動検査
- 仕様の確認や微細な傷の検出の自動化
- デジタル化
- 品質保証に関するデータの一元管理
- 集中管理室(リモート設備メンテナンス、設備の故障診断、故障予知、予防保全)
- スマートグラスを活用した作業訓練
パワートレインの一括搭載は、エンジン車とHEV、EVで生産ラインを分けずに1ラインで混流生産できるようにするための仕組みだ。現在、追浜工場でエンジン車とHEVの混流生産は実施しているが、EVを追加した場合はいずれかのパワートレインでしか組み付けない部品が発生し、組み付け工程が増えてしまう。こうしたパワートレインごとの組み付け工程の差を吸収するため、フロント/センター/リアで分割したパレットにそれぞれに必要な部品を搭載し、共通のベースのパレットに載せる流れとした。
3つのパレットを載せたベースのパレットに、ハンガーで吊り上げられて流れてきた車体を載せることであらゆる車種のアンダーフロアを1ラインで搭載できるようにしている。ハンガー上の車体の姿勢には微妙なズレがあるが、車体の位置をリアルタイムで計測し、パレットの位置を±0.05mmの精度で補正することで位置を合わせる。搭載後はロボットが自動でボルトを締め付ける。
既存モデルは、そのままの設計ではパワートレイン一括搭載システムで組み付けを行うことができない。車両のプラットフォーム変更などの機会に、一括搭載システムに合わせた構造に変更する必要がある。例えば、従来はボルトを斜めに締め付ける必要があったが、アリアはパワートレイン一括搭載システムでの組み付けを前提に真下からストレートに締め付けできるようにアンダーボディーを設計した。この他にも339件の構造要件が車両の設計に織り込まれている。
なお、システムに対応していない車両を生産するラインでも、パワートレイン一括搭載に近い仕組みを取り入れたい考えだ。従来は、作業者が重量物を載せたリフターの位置を合わせ、腰を曲げた状態で腕を上げる負荷の高い作業姿勢で組み付けを行う必要があった。生産車種によってはパワートレイン一括搭載システムの導入まで時間を要するが、作業負荷を軽減するコンセプトは取り入れていく。
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