工場にIT略語を持ち込むのは間違っているだろうか:事例で学ぶ製造業DXセキュリティ対策入門(2)(3/4 ページ)
社内DXセキュリティプロジェクトチームのリーダーに任命された、ABC化学薬品新卒6年目の青井葵。元工場長の変わり者、古井課長の手助けも得て、製造業がDXプロジェクトと併せて進めるべき「DXセキュリティ対策」を推進していく本連載。今回は、現場ヒアリングのために行った工場側との打ち合わせがうまくいかなかった原因を探る。
そびえたつ文化の壁
まあ、そうだろうねぇ……。ところで、青井さんは海外旅行とか行くことある?
はい大好きです。以前は、台湾とか、タイとかよく行ってましたが、それが何の関係あるんですか?
まあまあ、そう焦らずに。青井さんは、そういった国の現地の人とどうやってコミュニケーション取るの?
英語が中心ですね。全然話せないですけど、何とかなるもんです。あと、簡単な現地語のあいさつを覚えていくとホテルとかお買い物のときに楽しいですね。逆に、免税店とかいくと、店員さんが日本語で話しかけたりしてきてびっくりしますが、何だかほっとして、いろいろ買っちゃいます。
なかなか良い体験をしているね。でも、結局、そういうことだと思うんだよね。この問題は。
え? 何の問題ですか?
打ち合わせがうまくいかなかった根本の問題だよ。青井さんのようなITの人たちと、工場の人たちとが、コミュニケーションを取ろうと思うと、文化の違いを理解して、共通の言葉を使うか、お互いの言葉を学んで歩み寄ることが大事なんだと思う。
なるほど。言いたいことは分かるのですが。でも、同じ会社なのに、そこまで文化や言葉が違うものなんでしょうか。
まあ、そう思うのも無理ないよね。別に工場は外国じゃないんだし。でも工場の人たちが大事にしていることや判断の基準は、ITとは全然違うと思ったほうがいい。例えば、青井さんは、この資料のことを「たたき台」といって説明したんだよね。
はい、まあ、取りあえず、皆さんの意見を聞くにもたたき台がないと始まらないかなと思いまして。
青井さんらしい気配りだと思うのだけど、工場の人たちは、特に安全に関わるような施策について「取りあえず」という言葉は本能的に受け入れられないんだよ……。
課長は、想いにふけるようなそぶりとともに目を伏せて、しばらく沈黙が続く。
……なるほど。ITセキュリティの感覚だと、多少の不具合があっても、せいぜい業務が止まるくらいですが、工場の感覚だと、検討不足や不具合は、人命に関わるかもしれないと。そういうことですね。
その通り。工場での事故は「いつもと違うこと」に起因することが多いんだ。つまり、十分な検討なしに、現状を変えることは、大きな事故につながる可能性があると身構えてしまうのさ。
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