誰もが手軽にROSロボット/IoTシステムの開発に取り組める「RDBOX」とは:仮想環境を使ったクラウド時代の組み込み開発のススメ(5)(2/4 ページ)
IoT/クラウドロボティクス時代のシステム開発を加速化する仮想環境の活用について解説する本連載。第5回は、“現実のインフラレイヤー”の構築と運用を含めて、自動化する「ツラさ」を乗り越えるための策として、筆者らが研究開発に取り組んでいるOSS「RDBOX」について紹介する。
RDBOXで体現するシンプル化戦略
上記3つの目標を、「誰もが、手軽に」達成するためには、技術はもちろん経済面にも配慮が必要です。前回の記事では、IT分野からさまざまなインフラレイヤー向けプロダクトが供給されているものの、ROSロボット/IoTシステム産業の現状に対して高価(数千万円〜)であることを課題として取り上げました。また、多機能で自由度が高いが故に、やりたいことを実現するには高度な専門技術(時にはベンダー固有技術)が要求されるため、ROSロボット/IoTシステムの研究開発に注力したい利用者に余計な負担をかけます。単純に、これらプロダクトと似たモノをオープン実装で供給することは可能かもしれません。しかし、OSS開発側の体制が大規模過ぎて維持が困難になります。何より利用側も「何でもできるインフラレイヤーを必要としているわけではない」とも考えられます。
そこで。ROSロボット/IoTシステムにおけるユースケースや事例を調査しました。その結果、インフラレイヤーには多くの共通点があることが分かりました。それを加味して、RDBOXでは、多くのユースケースに適用可能な「標準インフラレイヤー」を定義することにしました。そして、その標準インフラレイヤーに特化した自動構築/自動運用の各技術を提供しています。このようにスコープを絞ることによって、少数で運営するOSS開発チームであっても、安定したコミットを続けることが可能となりました。
標準インフラレイヤーについて、もう少し詳しく知りたい
RDBOXでは、標準インフラレイヤーを基礎としてKubernetesクラスタを構築します。そのため、Kubernetesが要求する幾つかの仕様に従う必要があります。例えば、各コンピュータ間で通信可能であることが求められます。それらを考慮し設計された、RDBOXが提供する標準インフラレイヤーのネットワーク図を以下に示します(図2)。
標準インフラレイヤーでは、コンピュータの設置場所を「クラウド」「拠点」の2つに大別することができます。クラウド:拠点は「1:N」の関係性を有します。これらの各設置場所の内部では、同一セグメントのプライベートネットワークが構成されています。そして、設置場所同士は、インターネットVPN(Virtual Private Network、仮想専用線)を用いて、セキュアに結ばれており、プライベートネットワーク内で通信しているかのような状況を実現します。(例:図2の水色雲マーク内の機器は相互通信可能。ただし、拠点同士の接続は制限するなどのセキュリティ制限あり)
RDBOXの標準インフラレイヤーが有する特徴を以下に示します。
- セキュリティ確保と利便性の両立
- ファイアウォールとVPNによる外部からの防御
- TLS-VPNを採用(インターネット接続が可能な既存ネットワークから接続)
- 自動化に適したIPアドレスやサブネット体系の設計
- 設置場所の違いを意識させないようにする仕掛け
- VPNサーバをはじめとする各部品を、必要に応じて交換可能
- 標準インフラレイヤーを使用しながら、部分的なユーザー独自の変更・拡張を実現
- 旧来のシステム(レガシー)を生かしながら、部分的にクラウドネイティブなアプリケーションへの移行をサポート
- 設置場所由来のメリット(デメリット)に配慮した適切なコンピュータ配置が可能
- ネットワーク遅延を気にしなくてもいい「拠点のコンピュータ」
- オンデマンドで増減可能な「クラウドのコンピュータ」(ハイパフォーマンスなCPU、潤沢なメモリ、GPGPU、大容量ストレージ)
情報技術(IT)は往々にして、不確実性(破壊的技術の登場、流行の変化、ベストエフォートなネットワークなど)を含みます。上記で列挙した特徴は、万が一不確実性のわなに嵌ったとしても、そこからの挽回する余地を与えてくれるものです。
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