京セラの3軸水晶ジャイロセンサが卓球選手の超高速スイングを見える化する:イノベーションのレシピ(1/3 ページ)
京セラは独自開発した「3軸水晶ジャイロセンサモジュール」を用いて卓球選手の動きを可視化するプロジェクトを進めている。京セラの担当者に3軸水晶ジャイロセンサモジュールの技術詳細と、同モジュールを卓球に適用した狙いを聞いた。
スポーツの世界では近年、IoT(モノのインターネット)センサーや映像解析技術などを用いて選手の動きなどを見える化し、選手のパフォーマンス向上につなげる取り組みが加速している。ただ、中には技術的な制約から可視化が難しい競技もある。例えば卓球はラケットのスイングスピードが非常に高速で、ジャイロセンサーなどで選手の動きを正確に把握することが困難だった。
これを解決し得るのが、京セラが慶応義塾大学SFC研究所と協力して開発中の「卓球ラケットセンサシステム」だ。同システムには京セラが独自開発した「3軸水晶ジャイロセンサモジュール」が採用されており、一般的なジャイロセンサーでは計測できないほど高速で運動する物体の角速度も計測できる。
これによって選手の動きなどを効果的に分析して、卓球の技術向上支援につなげることことを目指す。すでに、同システムを用いたプロ卓球選手チームとの実証実験も開始した。
システムの中核を担う3軸水晶ジャイロセンサモジュールの技術詳細と、同モジュールを卓球に適用した狙いについて、京セラ 研究開発本部 先進マテリアルデバイス研究所 生体機能デバイス開発部 課責任者の生田貴紀氏と同 係責任者の川口義之氏に話を聞いた。
スイングスピードなど3つの情報を可視化
卓球ラケットセンサシステムは、3軸水晶ジャイロセンサモジュールを卓球ラケットのグリップ底面に装着して活用する。同センサモジュールで取得できるのは、ラケットのスイングスピード(肘からラケットまでの角速度)、ラケット面の傾き(姿勢)、球がラケットにヒットした際の時刻の3つ。計測したデータはタブレット端末へと転送され、自分の動きを後から確認できる。球を打った際のラケットの姿勢やスイングスピードをデータで確認することで、自分の動きをより深く理解しやすくなる。
センサモジュールのサイズは3.4×2.4×2.2cmで重さは14g。記録時間は最大2分間で、サンプリング周波数は1kHz。データ転送形式はBluetoothに対応している。電源待機持続時間は100分。
また、タブレット端末で撮影した選手の動画を、同端末に導入したAI(人工知能)の骨格推定ソフトウェアで解析することも可能だ。スケルトンモデル化した選手の動きとラケットの姿勢を画面上に同時に表示させることもできる。例えば、卓球の習熟度が高い選手のラケットの姿勢や動かし方、卓球台に対するプレイヤーの位置取り、腰の位置などを可視化すれば、初心者の選手が自身のフォーム改善などに役立てやすくなる。
「選手にアドバイスする際、言葉だけだとなかなかポイントが伝わらないこともある。動画で選手を撮影しておくという手もあるが、見たいヒットシーンの頭出しを逐一行うのは手間だ。卓球ラケットセンサシステムを使えば、特定の打球のみにフォーカスしてすぐにデータを確認できる。練習中の動きを可視化して選手と共有できるため、より効果的なトレーニング指導につながる」(生田氏)
京セラは2021年2月から2022年1月にかけて、沖縄のプロ卓球チームである「琉球アスティーダ」の所属選手から協力を得て、卓球ラケットセンサシステムによる実際の技能向上効果についての実証実験を行っている。
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