「失われたものを取り戻す」パナソニック楠見新社長が求めるトヨタ式現場力:製造マネジメント インタビュー(2/4 ページ)
2021年4月にパナソニックのCEOに就任し、同年6月に代表取締役 社長執行役員となった楠見雄規氏が報道陣の合同インタビューに応じ、事業会社制の狙いや2年間のオペレーション力強化への取り組み、パナソニックの強みなどについて説明した。
目指す「社内稼業」化、理想は「トヨタの現場力」
―― 経営理念も含めたコンセプトを基にどういう取り組みを行うのか。
楠見氏 昔の良かったころのパナソニックと現在を比べると、失ってきたものがある。それを取り戻していかなければならない。それは社員一人一人の考え方を変えていくということにもつながる。
私は2021年3月まで3年間、車載電池などを含めた車載関連事業を担当していた。その中でトヨタ自動車(以下、トヨタ)と一緒に仕事をする機会があり、トヨタの高収益の理由は現場力にあると強く感じた。ここでいう現場力は、現場の社員一人一人が考えて、日々改善を進めていくということだ。トヨタでは、これがあらゆる社員の隅々にまで浸透している。一方でパナソニックを見ると、かつてのデジタルAVの事業などを中心に、とにかく決められた仕事をやり切ることが求められた。その中で、決められた仕事を真面目にやるということはできるが、さらにそれを改善していく点がおろそかになっていた面がある。一人一人が考えてより良い環境にしていくところが失われていたのではないかと考えている。
ただ、こうした一人一人が改善するような社風がパナソニックになかったのかを振り返ると、そういうことができていた時代もあった。「社員稼業」という言葉で示されるように、1950年代には一人一人が独立経営者であるという信念を持って仕事をすることが求められ、実際にその時期のパナソニックは業績も良かった。社長就任が決まってからパナソニックの強かった時代を研究し、そういうことに気付いた。現在のパナソニックの状況やトヨタの状況を見るとまさにこうした違いが業績の差につながっている。だからこそ、2年間という単位で社員の風土を含めた競争力強化に取り組むということを強調している。
あえて経営数値目標を目的化しない意味
―― 経営理念に立ち返ることを発信しているが、経営理念そのものは以前からあったものだ。具体的に何が変わるのか。
楠見氏 経営理念そのものは確かにもともとあるものだ。しかし実践できているかどうかは別だ。この実践できていないところを実践できるようにするところがポイントになる。
経営方針発表や今回のインタビューも含めて「他社に負けない立派な仕事をする」など、あえて抽象的な言葉でさまざまな経営の方向性を示している。これは、経営数値目標を提示するとそれが目的化してしまうのが怖いからだ。例えば、営業利益目標を5%と設定すると、経営財務的な工夫も含めて目標は達成したが事業課題は先送りにするということが起こるかもしれない。また、目標値に達すればそれ以上は頑張らなくてよいとなりがちだ。しかし、経営の目標は先述したように社会に貢献していくことだ。その考えに立てば、目標の達成のみが目的化することは、本質的な目的とずれることになる。今社内では経営の目的に立ち返ることを何度も話しているところだ。
―― オペレーション力(現場力)向上について、トヨタの話が出ているが、それぞれの現場に対してどういう働きかけをしていくのか。
楠見氏 “現場100回”しかないと考えている。こうした風土の改革は、1人で変えるものではなく、会社の形を変えたからできるものでもない。オペレーション力は現場力と同じ意味で使っているが、各現場はそれぞれ異なっており、現場の一人一人が考えて、解消していくものでなくてはならない。一から十まで指示があって動くような現場が強いわけがない。一人一人が目標に対してどういう働きかけをするのかを考えて動ける現場の方が明らかに総体として強くなる。
その上で具体的な動きは、1つはこうした現場の取り組みの重要性について発信していくことがある。もう1つは、改善を進める上で、課題に気付いたことを発信してもよい環境を整備するということだ。心理的安全性を確保できる環境を作ることが、オペレーション向上につながる。職場によっては提言をすれば、提言者に丸投げするようなことも起こりがちだが、これではいけない。安心して意見が言い合える環境が徹底できれば、課題を出しやすくなり、さらに迅速な解決が可能になる。また、手戻りや滞留も少なくできる。さまざまな現場でそういう環境が実現できるようにしていきたい。
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