リチウムイオン電池の性能を左右する「活物質」とは?【正極編】:今こそ知りたい電池のあれこれ(4)(3/3 ページ)
今回から数回にわたり、リチウムイオン電池に用いられる代表的な材料にはどんなものがあり、どのようにして電池の特性を左右するのか、解説していきたいと思います。
また、Volkswagen(フォルクスワーゲン)が2021年3月に開催した「Power Day」においても正極活物質の違いに注目した発表がなされました。同社からは、マンガン含有率の高い正極活物質を主軸にし、用途によって他の材料系を使い分ける長期戦略が語られました。
- ENTRY IRON PHOSPHATE:エントリーモデルには安価なオリビン鉄を採用
- VOLUME HIGH MANGANESE:ボリューム帯はマンガン含有率の高い正極活物質で対応
- SPECIFIC SOLUTIONS NICKEL MANGANESE COBALT:特別な用途にはコバルトを含む三元系材料(NCM)を採用
- SOLID STATE:将来的には次世代系(全固体電池)への置き換えも視野に
新しい物質の危険性を理解する
このように進められている正極活物質の開発に対して、日本カーリットの受託試験部でもさまざまなアプローチから協力しています。
新規に開発された材料を安全に取り扱うには、その物質にどのような「危険性」があるかを知っておく必要があります。燃焼性や爆発性を有する物質であっても、危険性を把握した上で適切な取り扱いをすれば事故を起こす可能性は低くなります。
危険性評価試験所では、消防法等で取り扱いが規制されていない研究段階の新規物質であっても、その危険性を評価することが可能です。
また、正極活物質の改良によって電池容量が向上する一方、高エネルギー体であるが故に増加する危険性もあります。当試験所では、発火・爆発が予想される試験であっても安全に実施できる設備や試験環境を提供しています。
電気化学的な観点からは、電池試験所で取得した充放電試験データの解析を提案しています。例えば、充放電試験データを微分解析することで、正極活物質による反応メカニズムや劣化機構の違いを評価することができます。
今回はリチウムイオン電池の性能を左右する「正極活物質」についてまとめてみました。正極活物質の開発トレンドは「コバルトフリー」です。世界的なEVシフトの流れを受け、リチウムイオン電池に関する報道を目にする機会が増えている昨今、電池の価格低減や性能向上に寄与する要素を探るには、今回ご紹介したような正極活物質とそこに用いられる金属資源について注目してみるといいかもしれません。
次回は「正極」の対となる「負極」の活物質について解説していきたいと思います。
著者プロフィール
川邉裕(かわべ ゆう)
日本カーリット株式会社 生産本部 受託試験部 電池試験所
研究開発職を経て、2018年より現職。日本カーリットにて、電池の充放電受託試験に従事。受託評価を通して電池産業に貢献できるよう、日々業務に取り組んでいる。
「超逆境クイズバトル!!99人の壁」(フジテレビ系)にジャンル「電池」「小学理科」で出演。
▼日本カーリット
http://www.carlit.co.jp/
▼電池試験所の特徴
http://www.carlit.co.jp/assessment/battery/
▼安全性評価試験(電池)
http://www.carlit.co.jp/assessment/battery/safety.html
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