世界初の大規模国際共同研究で微小血管狭心症の実態を解明:医療技術ニュース
東北大学を含む国際研究グループは、国際診断基準により微小血管狭心症と診断された世界7カ国の患者について、世界初となる前向きの国際共同登録研究を実施し、臨床的特徴や危険因子、長期予後などを明らかにした。
東北大学は2021年5月27日、国際診断基準により微小血管狭心症と診断された世界7カ国の患者について、初めて前向きの国際共同登録研究を実施し、臨床的特徴や危険因子、長期予後などを明らかにしたと発表した。同大学大学院医学研究科 客員教授の下川宏明氏らと、冠動脈機能異常に関する国際共同研究組織(Coronary Vasomotor Disorder StudyGroup Summit:COVADIS)の共同研究による成果だ。
今回の研究では、2015年7月〜2018年12月に、日本やイギリスなど7カ国14施設で微小血管狭心症患者として登録された704人のうち、2019年12月まで追跡できた686人を対象とした。
臨床像、心血管イベント発生を含めた長期予後、イベント発生の危険因子などについて対象者を解析した結果、これまで女性に多いと考えられていた微小血管狭心症が、男女比約1:2で男性にも認められることが明らかとなった。シアトル狭心症質問票を用いたQOL調査では、全項目において女性は男性よりQOLが低下していた。
また、中央値398日間の追跡期間における心血管イベントの年間発症率は7.7%であり、微小血管狭心症が予後の良い疾患とは言えないことが示された。
心血管イベント発生率の男女差はなかったが、欧米人患者はアジア人患者に比べて発生率が高かった。人種による差は、動脈硬化の危険因子で補正すると有意ではなくなった。高血圧症と過去の冠動脈疾患歴が、予後に影響を与えることが分かった。
狭心症は、これまで動脈硬化性の冠動脈狭窄や冠動脈攣縮が原因と考えられてきた。近年は新たな病態として、冠微小血管の機能異常による微小血管狭心症が注目されている。
しかし、微小血管狭心症に関する国際的な大規模臨床試験は実施されたことがなく、臨床像や長期予後、危険因子なども不明だった。今回の研究結果は、予後不良群の層別化や新たな治療法の開発につながることが期待される。
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