マルチコアマイコンへの対応で進化するAUTOSAR Classic Platform(後編):AUTOSARを使いこなす(20)(5/5 ページ)
車載ソフトウェアを扱う上で既に必要不可欠なものとなっているAUTOSAR。このAUTOSARを「使いこなす」にはどうすればいいのだろうか。連載第20回では、前回に引き続き、AUTOSAR Classic Platformにおけるマルチコアマイコンへの対応について解説する。
まとめ
AUTOSARを、「使えたら使う」「ただ従うもの」とだけ捉えるのか、あるいは、「使えるようにするもの」と捉えるのか。
この問いは単なる二択の問題と考えるべきではありません。
前者だけと捉えるなら、前述の「利用できるのか?」「従うことができるのか?」という問いが出てくるでしょう。
そして、それらに続き、「従うことによる問題を生み出さない」(そのためのアクションの例:既存不具合の把握と対処)、「長期間安定して従うことができる」(例:できるだけ変化を減らす/許容範囲内にとどめる)、「従う上での負担を減らす」(例:自動化などの各種最適化)などの価値が重視されていくことと思います。
一方、後者だけと捉えるなら、同様に「利用したいものは何か?」「どのように利用できるようにしたいのか?」という問いが自然に出てくるでしょうし、「何かを変えることにより、さらに価値を高める」(例:他社の強みを、I/Fに関する標準規格などを通じて、自社の強みとして取り込めるようにする)などの価値が重視されていくことでしょう。
この問題のたちが悪いところは、両者が必ずしも矛盾/トレードオフなしには両立しない場合があることです(例:ここでは「安定vs.変化」の対立があります)。
「ならば(両立しないのだから)、一方を選ぶ」という戦略は、一見するとまっとうに見えてしまうかもしれませんが、実はものごとを単純に見すぎています。
というのも、たとえ前者を選択したとしても、標準化団体で後者が優勢なら規格は変わっていくからです。
そうなれば、「自分たちはこういう方針だ」といくら言っても意味がありません。また、「自分たちは、変えようとは思っていない」としても、変わっていきますし、変わり方を100%コントロールできるわけではありません。
ですから、むしろ標準化に参加しながら、両者のバランスとその変化を見極めて、そこに合わせていく、そういったアプローチも必要になるでしょう。自分たちのユースケースを見極め、それを踏まえ「変えることにより得られるもの」に目を向け行動に移し、そこから何かを得るべきではないでしょうか。
前回も書きましたように、標準化活動での最初のステップは当然「ユースケース」の議論です。
一般的には、標準化に値するユースケースなのか(それなりの利用が見込めるのか)について主に話し合われます。まずはそこに参加し、ユースケースに関する情報を提供することで、標準化で想定する「ユースケースの枠」を知りそこに入る、それが第一歩ではないでしょうか。
標準化は、実現手段のエキスパートだけでは行うことができません。ユースケース/利用のエキスパートの助力がなければ、優先度/トレードオフの判断が難しくなりますし、下手をすれば「無目的メカニズム」に成り下がってしまうからです。
AUTOSARや規格に対し、
「使えるかな?」
ではなく、
「その先の○○のために、使うんだよ! 使えるようにするんだよ!」
という向き合い方への切り替え、チャレンジをしてみませんか?※12)
※12)これまで、「自分に権限がない部分について言われても、人は困るものだよ、黙ることも大切なんだ」と親切に教えて下さった方もいらっしゃいます。もちろん、責任分担/権限の壁はそれぞれおありでしょう。しかし、権限がないから黙ってしまうということは、せっかくの気付きを、なかったことにしてしまいます。ご自身の「権限がないから」と諦めた結果と、諦めずに適切な方に伝えて対処につなげた結果の間に差が生じるとしたら、その差に対するご自身の責任をどうお考えになるでしょうか? 「未来と現状の差」という無機質なとらえ方では「何も変わらないならマイナス評価はない」と冷ややかに評価してしまいがちだと思いますが、「自分のなせたことと、なさなかったことの差」、つまり、ご自身「I」をまじえての有機的なとらえ方に切り替えると、見え方も多少は変わってくると思います。
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