工場で広がる「無線」への期待と課題、ローカル5Gは何を変えるのか:いまさら聞けないスマートファクトリー(8)(3/4 ページ)
成果が出ないスマートファクトリーの課題を掘り下げ、より多くの製造業が成果を得られるようにするために、考え方を整理し分かりやすく紹介する本連載。前回から製造現場でつまずくポイントとその対策についてお伝えしていますが、第8回では、製造現場で広がる無線通信活用の課題と生かし方について解説します。
「工場内ネットワークの在り方」をどう考えるか
工場内ネットワークの在り方とか考えたこともありませんでした。
確かに工場の生産技術者が考えることではなかったかもしれないわね。でも、今後もっと使うことを考えると、「誰がやるか」は置いておいても、誰かが踏み込んでやる必要があるわ。
どういうことを考えればいいんですか。
まずは、有線と無線、免許型と非免許型の4つの切り口で考えることかしらね。
免許型?非免許型?
まあ、有線と無線は分かるわよね。免許型、非免許型は、基地局の設置に免許がいる通信とそうでない通信ね。非免許型はWi-FiやLPWAなんかがその代表ね。免許型はキャリア通信とかね。5Gも免許型になるわ。
すごく大ざっぱですが、有線通信は、信頼性が高いメリットがある代わりにケーブル敷設などのコストや負担が大きくなるデメリットがあります。無線通信は逆に設置が楽ですぐに使えるというメリットがある一方、遅延も含めた信頼性に課題があります。また、免許型通信は信頼性は高い一方で、免許取得の負担や基地局コストが高くなるデメリットがあります。非免許型通信はこうした負担がない代わりに信頼性の面では保証されないというデメリットがあります。
全てが高信頼性のもので備えられればベストですが、費用対効果や関連手続きや工事の負担を考えると、大半の工場では難しい話です。つまり、これらの通信を組み合わせて最適な形を決めていく必要があるわけです。こうしたことを考えるのが「工場内ネットワークの在り方」です。
無線ネットワークの活用ポイント
そういわれても、どう考えればよいのかのとっかかりもないんです。
そうね。これは1つの考え方かもしれないけれど、スタート地点としては「有線で問題ないところは有線を使う」ところから考え始めるといいかもしれないわね。
なるほど。
有線では難しかったところで、通信が必要なところに最適な技術を当てはめるという順番かしら。無線通信である必然性みたいなところね。
おお、分かりました。ケーブル敷設が難しいところや、そもそも移動体で有線だと使用ができないような領域ということですね。
まさにその通り。さきほどのグーチョキパーツのところだと、製造装置まで有線通信を引く工事費用が大きくなりすぎて費用効果が合わないというのであれば、無線の必然性はあるわよね。でも「少しめんどくさいな」くらいで、有線通信を引くことが可能なのであれば、有線でいいんじゃないかしら。
確かに。あまりそこまで精査していませんでした。もう1度考え直してみます。
スマートファクトリー化で工場内のデータ流通がかつてないほど高まっている中、通信容量は今後も増え続けることは間違いありません。その中で、野放図に無線通信を増やしては限界が見えてきます。将来的には、気にしなくてもよい時代が来るのかもしれませんが、当面は「無線の必要がある通信なのか」を検証し、有線通信でもできる領域については、有線で行う方が無難だと考えます。
また、こうしたことを考えるのに、現在だけで考えるのではなく、将来のロードマップも描いて進めることが必要だと考えます。将来的にAGVを大量導入するような製造現場を目指すのであれば、大規模な無線通信に耐え得るネットワーク環境を構築する必要があります。こうしたことを考えることで「非免許型通信ではなく免許型通信が必要になる」という今後の方策を立てることができます。スマートファクトリー化を進める中では「データ」と「ネットワーク」に関する技術は必須になってきます。そういう意味で工場のネットワークに真剣に向き合うべきときが来ていると感じます。
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