あなただけの「最高のお茶体験」を提供する、“IoTティーポット”ができるまで:モノづくりスタートアップ開発物語(9)(2/3 ページ)
モノづくり施設「DMM.make AKIBA」を活用したモノづくりスタートアップの開発秘話をお送りする本連載。第9回は、モーターやセンサーを内蔵した“IoTティーポット”を製品化したLOAD&ROADを取り上げる。試作品の段階では「お茶を入れたポットから直接飲む」という方式を取っていた同社。しかし、便利だがこれで本当に「最高のお茶体験」を提供できるのか疑問を抱く。
「最高のお茶体験」とは何かを見つめ直す
――製品化までの道のりをお聞きします。最初の試作機はどんなものでしたか。
河野辺氏 2017年5月にDMM.make AKIBAに入居して試作機づくりを始めました。秋に完成した初号機は、直径4cmのインフューザーに茶葉3gを入れて、水を入れたボトルの底に沈めるという構造をとっていました。ボトルにヒーターを巻き付けてその上を断熱材とアルミ箔で覆っています。そしてボトルを取り付ける土台に磁石を置いておき、S極とN極を入れ替えることで、ボトル下部のインフューザーを上下に回転させて抽出する仕組みです。抽出終了後はそのままボトルでお茶を飲めるというものでした。
――開発は順調でしたか。
河野辺氏 4cmのインフューザーを回転させる機構は成立しましたが、茶葉は湯で膨れるので、直径4cmのインフューザーでは小さすぎました。すぐに直径6cmに大きくしたのですが、今度はベース側とインフューザー側の磁石の距離が広がって、思い通りに上下回転しなくなってしまいました。
――大ピンチですね。
河野辺氏 これがきっかけで、モーター設置箇所がボトル下部ではどうやってもうまくいかないと気付きました。
それと構造的な問題とは別に、「ボトルのまま飲む」という点も改める必要があるのではないか、と感じました。お茶を味わう際は、お茶そのもののおいしさがもちろん重要ですが、陶器、グラス、プラスチックなど容器の材質も重要な要素になります。ボトルのまま味わうのは便利ではありますが、「最高のお茶体験を届ける」という当社の目標から外れているのではないか、と感じたのです。一度根本に立ち返って事業を進めようと思い、2018年春、試作機づくりを全面的に見直すことにしました。
――どう見直したのですか。
河野辺氏 東京都の清澄白河駅周辺の公園で、エンジニアなど当時の開発メンバー数人を集め、プロの入れ手にいろいろなお茶を提供していただくワークショップをして、アイデアを出し合いました。
その結果出たのが時間の話です。お茶を自動的に入れる装置は市場にたくさん出ていますが、多くが「30秒で入れられる」と効率性をPRしたものでした。でも私たちが目指す「最高のお茶体験」は、お茶そのものの品質向上が第一で、そのためには、お茶入れに10分かかってもいいと考えました。そこでコンセプトを見直すとともに、それまでのボトル形式をポットに変えて、お茶を飲む専用グラスも作ることになりました。
もう1つ、インフューザーを大きくするために、ベース側の磁石の位置をポットの側面にしようというアイデアが出ました。こうすることで、インフューザー側の磁石との距離を縮めて、安定的に回転させられるようになります。
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