東南アジアでも日本品質のトマトやいちごを高収量で生産できる「植物工場」とは:スマートアグリ(1/3 ページ)
アジアモンスーンPFSコンソーシアムが「アジアモンスーンモデル植物工場システム」を発表。野菜や果物の効率的な栽培で知られるオランダ式ハウス栽培施設が1ha当たり6億〜8億円かかるところを、今回開発した技術であれば1ha当たり2億円未満に抑えられる。トマトやいちご、パプリカなどの生産性や品質についても十分な成果が得られた。
三菱ケミカル、パナソニック、シチズン電子は2021年3月26日、オンラインで会見を開き、三菱ケミカルを代表機関とするアジアモンスーンPFS(Plant Factory System)コンソーシアムの開発成果である「アジアモンスーンモデル植物工場システム(AMPFS)」について発表した。野菜や果物の効率的な栽培で知られるオランダ式ハウス栽培施設が1ha当たり6億〜8億円かかるところを、今回開発した技術であれば1ha当たり2億円未満に抑えられるという。トマトの10a当たり収量が40トン、糖度が6%、いちごの10a当たり収量が4.1トン、糖度が10%、パプリカの10a当たり収量が10トン、糖度が8%など、生産性や品質についても十分な成果が得られた。
アジアモンスーンPFSコンソーシアムは、生物系特定産業技術研究支援センターの『「知」の集積と活用の場による研究開発モデル事業』に採択されたプロジェクトである「農林水産・食品産業の情報化と生産システムの革新を推進するアジアモンスーンモデル植物工場システムの開発」を推進するため2016年12月に結成された。三菱ケミカルを代表機関とし、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)、国際農林水産業研究センター(JIRCAS)、産業技術総合研究所(AIST)の3研究機関、名古屋大学、大阪大学、東京大学、北海道大学の4大学、三菱ケミカル、パナソニック、富士フイルム、シチズン電子、タキイ種苗、堀場製作所の6社が参加している。
同プロジェクトは、日本の農業と工業のコア技術を融合し、本州など日本国内の温帯地域と同様に、高温多湿地域でも安全・安心でおいしい日本品種野菜を安定的かつ低価格で生産する技術の開発が目標。2021年3月末に2016年度から5カ年の研究が終了するが、沖縄県の石垣島にあるJIRCASの熱帯・島嶼研究拠点においての大規模実証を実施するなどして、当初掲げた目標の多くを達成することができたという。
アジアモンスーン地域ではオランダ式ハウス栽培が高コストに
研究内容が「アジアモンスーンモデル植物工場システム」とあるため、工場のような建屋の中で野菜や果物を育成するイメージが強いが、今回の植物工場システムは、外観としては一般的なハウス栽培で用いるビニールハウスと大きくは変わらない。
近年、野菜や果物の効率的な栽培で知られるオランダ式ハウス栽培に注目が集まっているが、オランダ式では屋根部などの高所に張ったワイヤを使ってトマトなどの植物の茎が高く立った状態で栽培を行うために、従来よりも天井の高いハウス施設が必要になる。しかし、台風や暴風雨の多いアジアモンスーン地域でオランダ式ハウス栽培を行える施設を建築するには、強度確保などのため高コストになってしまう。そのコスト目安が、冒頭に挙げた1ha当たり6億〜8億円である。そこで、アジアモンスーンPFSコンソーシアムでは、従来のハウス栽培と同じ高さ2〜3mのビニールハウスを用いてコストを抑えるとともに、新素材やセンサー制御、クラウド活用などの導入によって、オランダ式ハウス栽培と同等以上の栽培効率や品質を目標に据えた。
目標数値としては、栽培施設と装置から成るハウスの構築コストで1ha当たり2億円未満や、トマトの10a当たり収量30トン/糖度6%、いちごの10a当たり収量10トン/糖度10%、パプリカの10a当たり収量10トン/糖度8%などを挙げた。その上で、2020年度までに大規模化検証を終えて、ハウス構築コストは1ha当たり1.9億円を達成。収量と品質についても、トマトは目標を超える10a当たり収量40トン/糖度6%となり、パプリカは目標の10a当たり収量10トン/糖度8%をクリアした。いちごは、10a当たり収量4.1トン/糖度10%で収量が目標を下回ったが「それでも国内平均の2倍近い収量を実現できている」(三菱ケミカル インフラ・アグリマテリアルズ本部 ITファームプロジェクト プロジェクトマネジャーの吉田重信氏)という。
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