人手不足と高齢化の漁業を救う、「自動着桟システム」の最前線:船も「CASE」(2/3 ページ)
ヤンマーは、「最大の豊かさを最小の資源で実現する」というテクノロジーコンセプトを掲げ、そのコンセプトを実現する研究開発テーマを定めている。マリン関連の研究開発テーマとしては、海域調査やインフラ点検などに貢献する「ロボティックボート」、1本のジョイスティックだけで操船できるようにする「ジョイスティック操船システム」「自動航行」と「自動着桟」、そして、船舶特有の動揺を抑制する「サスペンションボート」に取り組んでいる。
自動航行と自動着桟システムにおいて、まず重要になるのが船の周囲にある障害物の検出と認識だ。そのため、このシステムの実証実験に用いている船には、レーダー、風向風速計、GNSS(全球測位衛星システム)、9台のカメラを組み合わせて前方180度を撮影できるマルチカメラアレイ、障害物までの距離を測定する3D-LiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)、自船の挙動を検出するIMU(慣性計測器)に、そして、これら搭載した機器で取得したデータから自船と周囲の情勢を評価して情報を表示するPCを搭載する。
3D-LiDARは船首に搭載した1基で240度をカバーできるので、左舷右舷それぞれ120度にある障害物の距離を測定できる。なお、後方を含めた全周カバーの必要性について開発担当者は「コストとシステムに求める機能のバランスで決まる」と述べている。
9台のカメラを使う画像認識技術の活用については、レーダーや3D-LiDARが不得意とする「何を認識したのか」において有効であり、その成果の一部はすでに公表されている(※)。特に小型船においては、危険水域や漁網の存在を示す数十cmの小型ブイの認識が重要であるが、レーダーや3D-LiDARを用いた検知では波と分離して検知することが課題とされてきた。本論文においては、静穏な海況といった限定的な条件ながら、ディープラーニングを用いた画像認識が小型ブイの認識に対して有用であることが示されている。一方、画像認識技術を製品に導入するためには、どの程度までコストをかけることができ、そのコストでどの程度の画像認識ができるのかといった費用対効果のバランスが課題になるという。
(※)海図生成技術SEAMLESSの提案と実証、嵩裕一郎、林大介、箭内多聞、若林勲、横上利之、杉浦恒、計測自動制御学会論文集、56-12、1-10、2020
理想を求めて挫折するのではなく、実現できることから始める
カメラによる画像認識技術や3D-LiDARによる高精度測距技術を導入した自動着桟システムでは、マルチカメラアレイで取得した画像情報、レーダーでとらえた反射波情報、GNSSで取得した自己位置情報、3D-LiDARで取得した距離情報、IMUで算出した自船の加速度や角速度、姿勢情報などを用いて、洋上物体の位置を求めて自船周囲の詳細マップを生成する。さらに安全に航行できる航路を算出してマップ(電子海図)にプロット、その航路を進むように左右両舷に備えた推進器の方向とスクリューの回転数を制御することで自動着桟操船を実現する。
自動着桟システムのアプリケーション構成。船内のECU(電子制御ユニット)はCANで接続し、処理用PCはイーサネットで接続。センサー情報はイーサネット経由にて取得する。PC側のOSはUbuntuを採用した(クリックして拡大)
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