古河電工が小型衛星向け電気推進機の電源を開発へ、JAXAと共創開始:宇宙開発
古河電工とJAXAは、小型衛星向け次世代電気推進機(ホールスラスター)の軽量化、低コスト化に役立つ電源の共同開発を開始すると発表。古河電工は、2025年度の軌道上実証や2026年度以降の事業化を目指す。JAXAは、将来のJAXAミッションを支える次世代ホールスラスターへの適用可能性を探る。
古河電気工業(以下、古河電工)とJAXA(宇宙航空研究開発機構)は2021年3月15日、小型衛星向け次世代電気推進機(ホールスラスター)の軽量化、低コスト化に役立つ電源の共同開発を開始すると発表した。2021年の1年間は、JAXAと民間事業者のプログラム「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」に基づくコンセプト共創活動として進めた後、古河電工は、地球観測や通信の分野など衛星コンステレーションへの展開も視野に入れ、2025年度の軌道上実証や2026年度以降の事業化を目指す。JAXAは、民生技術の宇宙適用に必要な助言や試験評価を行うとともに、将来のJAXAミッションを支える次世代ホールスラスターへの適用可能性を探るとしている。
人工衛星の推進機には、燃料による「化学推進」と電気エネルギーによる「電気推進」の2種類がある。今回、古河電工とJAXAが開発を進めるホールスラスターは電気推進に分類される推進機だ。電気推進の中では推力が高く、化学推進に比べて省燃費という特徴がある。JAXAも1kW級のホールスラスターの研究開発を進めている。
また、世界の人工衛星市場の中でも小型衛星の需要は年々高まっている。小型衛星は、大型衛星に比べて低コストかつ短期間で開発が可能であり、宇宙関連ベンチャー企業なども参入しやすく、宇宙利用の拡大が期待されているからだ。古河電工によれば、世界の500kg以下の小型人工衛星打ち上げ数は、2020年度の302から、2030年度には約10倍の3121まで増えるという。ホールスラスターは小型衛星に最適な推進機であり、小型衛星に併せて需要が拡大する可能性が高い。
そのホールスラスターの軽量化と低コスト化に向けて、構成機器の1つである電源に民生技術を活用することで課題解決を図る。古河電工は、民生品開発で培ってきた熱設計技術や巻線設計技術、GaN(窒化ガリウム)パワーデバイスの研究成果などをベースに構築した電源の小型・軽量化を進める。これに、JAXAが培ってきた宇宙環境下における放電制御技術などの研究成果を組み合わせることで、ホールスラスターの軽量化、低コスト化に関わる要素技術の獲得を目指す。
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