パイオニアがインクリメントPを売却、モビリティ向けソリューションに注力できるか:モビリティサービス
パイオニアは2021年3月10日、完全子会社のインクリメント・ピー(以下インクリメントP)を投資ファンドのポラリス・キャピタル・グループに売却すると発表した。取引の実行日は2021年6月1日で、インクリメントPの事業は従来通り継続する。
パイオニアは2021年3月10日、完全子会社のインクリメント・ピー(以下インクリメントP)を投資ファンドのポラリス・キャピタル・グループに売却すると発表した。取引の実行日は2021年6月1日で、インクリメントPの事業は従来通り継続する。
売却について、パイオニアは「ITやソフトウェアサービスに対する経験が豊富なポラリスがパートナーとなり、インクリメントPがより幅広い用途に向けて地図データや関連サービスの開発など地図事業でさらなる成長を図る」(プレスリリース)としている。また、売却後もパイオニアとインクリメントPは地図データの開発や提供で協業を続けるという。
パイオニアが今後注力するのは、自動車保険やフリート管理、物流などモビリティ関連に向けたソリューションサービスだ。現在は、デジタル地図データやプローブ情報、事故発生地点のデータ、天候、ドライバーの運転傾向から事故や危険を予測して警告するテレマティクス型の運転支援システムや、ドライブレコーダーやカーナビゲーションシステムによって動態管理や業務指示など運行管理を行うサービスを手掛ける。2006年から蓄積してきたモビリティデータを活用するとともに、オーディオで強みとしてきた音響の技術を組み合わせて、「安全で快適な車内空間をグローバルで提供する新しいサービスプラットフォームを年内に構築することを目指す」(プレスリリース)という。
モビリティサービスに注力する方針は以前から示しており、2019年には社内カンパニーとして「モビリティサービスカンパニー」を設立した。当時はモビリティサービスに必須となる位置情報を扱うインクリメントPを同カンパニーの傘下に置いていた。
パイオニアは傘下にインクリメントPがいたことで、高精度地図やダイナミックマップに早い段階から関わることができた。自動運転車で求められる高精度地図や、動的な情報をリアルタイムに反映したダイナミックマップへの取り組みを強化するため、2017年にはHERE Technologiesと業務資本提携を締結。2018年には、統一された品質でグローバルに網羅した高精度地図を提供するアライアンス「OneMap Alliance」もHEREなどと立ち上げていた(日本の高精度地図に関しては、インクリメントPがダイナミックマップ基盤に出資しており、HEREはダイナミックマップ基盤との連携に合意)。
HEREは地図データだけでなく位置情報活用にも取り組んでおり、クラウド上で位置情報データを検索、構築、共有するための共通データソース「Open Location Platform(オープンロケーションプラットフォーム)」を日本向けにローカライズして展開している。ここでインクリメントPが持つ日本の地図情報が使われている。なお、HEREは2019年に三菱商事とNTTから出資を受けてこの2社が筆頭株主となっており、アジア太平洋地域の事業を強化するとともに、物流や交通情報、ルート案内などのソリューション提供に注力している。パイオニアが強化しようとしているソリューションサービスと同じ方向だ。
自動車メーカーの一部モデルで高精度地図を使ったADAS(先進運転支援システム)が搭載されていることから、高精度地図は網羅するエリアを増やす段階から、製品での活用や、定期的な更新による維持が重要な段階に移行しつつあるといえる。ダイナミックマップは、位置情報をはじめとする動的なデータを物流や交通など事業者とともにいかに活用するかが問われている。インクリメントPを手放すことがパイオニアのソリューションサービスのビジネスにどう影響するか注目だ。
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