ホンダのレベル3の自動運転は限定100台、「しっかり使ってもらってフィードバックを得る」:自動運転技術(2/2 ページ)
ホンダは2021年3月4日、フラグシップセダン「レジェンド」にレベル3の自動運転を含む高度な運転支援システム「Honda SENSING Elite(ホンダセンシングエリート)」を搭載して3月5日からリース販売すると発表した。100台の限定生産で、当面は増産や販売拡大の計画はない。税込みメーカー希望小売価格は1100万円(既存モデルは724万9000円)。
1000万通りのシミュレーションで安全性を確認
ホンダセンシングエリートに対応したレジェンドは、フロントカメラ2個、LiDARを車両の四隅と後方に合計5個、ミリはレーダーを車両の四隅と前方に合計5個を周辺監視用センサーとして搭載する。
これらのセンサーに加えて、3次元高精度地図やGNSS(全球測位衛星システム)の情報を組み合わせて、自車位置や先の道路、交通状況を把握する。3次元高精度地図は、無線ネットワークによるアップデート(OTA:Over-The-Air)で更新するとしている。また、近赤外線カメラによるドライバーモニタリングシステムも搭載している。
各種センサーの検知範囲が重複するようにしただけでなく、ブレーキやステアリングも二重化した冗長設計とした。これらを動作させる電源も、セカンドバッテリーとDC-DCコンバーターで二重化している。また、国土交通省が定めた保安基準に従ったサイバーセキュリティ対応を進めた他、トラフィックジャムパイロットの作動状態記録装置や、車外に自動運転車であることを示すステッカーなどの装備も備えている。
周辺監視までシステム側で担うレベル3以上の自動運転システムは、「合理的に予見される防止可能な人身事故が生じないこと」が求められる。自ら事故を起こさないことを客観的に証明した上で製品化する必要があった。ホンダでは、ドライビングシミュレーターを使ったドライバーの動きの検証や、MILS(Model in the Loop Simulation)によるホンダセンシングエリートのアルゴリズムのバーチャルなテスト、ECUや実際の機器を組み合わせて検証するHILS(Hardware in the Loop Simulation)などを活用し、合計で1000万通りのシミュレーションを行なった。さらに、実証実験車で日本の高速道路を延べ130万kmを走行し、取得したデータをシミュレーションにフィードバックするなどリアルとシミュレーションが連携した高精度な検証を実践した。
本田技術研究所 先進技術研究所 エグゼクティブチーフエンジニア 杉本洋一氏は「ホンダセンシングエリートの開発を通じて多くのデータが得られただけでなく、技術やエンジニアの知見も蓄積された。安全性の設計、認知・判断・操作のアルゴリズムの高度化、安全性の論証プロセスの構築、シミュレーターと実機で検証する仕組みも作ることができた。こうした収穫は今後の安全技術の開発にも生かされる」とコメントした。
なぜ100台の限定生産?
100台のみの限定生産としたのは、ホンダセンシングエリートの取り扱いの説明などで一人一人のユーザーに丁寧に対応するためだという。また、販売店が確実にメンテナンスしてよい状態で使ってもらうため、リース販売とした。ホンダ 執行役員の寺谷公良氏は「まずは100台をしっかり使ってもらって、フィードバックを得ながら将来に向けて検討していきたい。社会受容性も見極めていく必要がある」と述べた。
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