アストロスケールが宇宙ごみ除去に向け開いた3つの扉、宇宙の持続利用を実現へ:宇宙開発(2/2 ページ)
宇宙空間に存在するごみ「スペースデブリ」の除去サービス開発に取り組むアストロスケールは2021年3月20日に打ち上げを予定しているスペースデブリ除去実証衛星「ELSA-d」をはじめとする同社の事業と、スペースデブリの除去によって宇宙における人類の活動を持続可能にするためのプロジェクト「#SpaceSustainability」について説明した。
「ELSA-d」で行う3回の実証実験とは
アストロスケールの事業展開にとって、2021年3月20日にカザフスタンのバイコヌール基地から打ち上げられる予定のELSA-dのミッションは極めて重要なものになる。アストロスケール ゼネラルマネージャーの伊藤美樹氏は「本番さながらの技術実証になる。そのためにさまざまな技術を開発してきた」と説明する。
ELSA-dは、捕獲機と模擬デブリという2機の衛星から構成されている。宇宙空間に出てから模擬デブリを切り離して、再度捕獲機で捕まえるという実証実験を3回実施する予定だ。捕獲機は磁石を使って模擬デブリを捕まえる機構が組み込まれている。模擬デブリに搭載されるドッキングプレートは、磁石でくっつくとともに、非協力物体であるスペースデブリの居場所が分かる宇宙空間内での目印になる機能も備えている。捕獲機側の捕獲機構は、模擬デブリを少しずれて捕獲しても問題がなく、捕獲についても何度もリトライできるようになっており、「極めて対応力が高い」(伊藤氏)という。
最大の特徴であるRPO技術では、GPSを使った絶対航法でスペースデブリに接近し、近傍では捕獲機のセンサーやレーダーを用いて近づく相対航法に切り替える。この相対航法での接近では、万が一にもスペースデブリにぶつからないような安全な軌道を用いる。伊藤氏は「たくさんあるパラメーターから何千何万ものシミュレーションを行ってようやく導き出した軌道だ」と語る。その後、スペースデブリの回転に合わせて捕獲機も回転してから捕獲し、最後にはスペースデブリとともに大気圏に突入して燃え尽きる。
ELSA-dが3回行う実証実験のうち、1回目は模擬デブリがほぼ回転していない状態で切り離してから捕獲を行う。2回目は模擬デブリを回転した状態で切り離してから捕獲を試みる。3回目はさらに難易度が高くなり、模擬デブリを回転した状態で切り離し、捕獲機が模擬デブリを見失うくらい遠方まで離れてから、模擬デブリを見つけて接近し、捕獲するという内容になっている。「これが実際のデブリ回収環境に近いものになるだろう」(伊藤氏)。3回目の実証実験の終了後は、大気圏に再突入して捕獲機、模擬デブリとも燃え尽き、宇宙空間に新たなスペースデブリは残さない。
今回の実証実験のハイライトは3つある。1つ目は、相手物体と非通信であることだ。ロケットと宇宙ステーションのランデブーやドッキングと異なり、スペースデブリは通信をしないので相手物体の状態が分からない中で近づかなければならない。
2つ目は回転物体の捕獲である。姿勢が制御された状態で運用される稼働中の衛星と異なり、スペースデブリは回転している。ELDA-dは、その回転状態を診断、分析してから、捕獲機構で捕獲できるように位置合わせを行う。
3つ目は、断続的な通信環境における自律航行で、地上局からの通信の分断がどうしても起こるため、ELSA-d自身が自律的にスペースデブリに近づけるような機能を備えている。
錦糸町駅前に「すみだラボ」を建設、「世界一好奇心が育つ場所に」
これらアストロスケールの取り組みを推進していく上で必要な、スペースデブリ除去の社会認知を広げる施策となるプロジェクトが#SpaceSustainabilityだ。#SpaceSustainabilityでは「情報発信とコミュニティー作り」「コミュニティーをけん引するスペシャルサポーター」「地域連携と教育推進」という3つの活動がある。
「情報発信とコミュニティー作り」では、#SpaceSustainabilityに関する基礎知識から最新ニュースまでさまざまな情報を発信する公式Webサイトを2021年2月18日からオープンしている。また、#SpaceSustainabilityに取り組む仲間である「Space Sweepers(スペーススイーパーズ)」を募集する。プレゼントが当たるTwitterを用いたキャンペーンも同年3月4〜17日に行う予定だ。「コミュニティーをけん引するスペシャルサポーター」では、宇宙飛行士の山崎直子氏、パックンことお笑い芸人/コメンテーターのパトリック・ハーラン氏、漫画「宇宙兄弟」の主人公兄弟である南波六太と日々人が就任する。
会見の中では、スペシャルサポーターの山崎直子氏、パトリック・ハーラン氏が参加するトークセッションも行われた。写真は左から、ハーラン氏、山崎氏、アストロスケールの岡田光信氏(クリックで拡大) 出典:アストロスケール
「地域連携と教育推進」では、現在アストロスケールの本社がある東京都墨田区の錦糸町駅前に、2023年をめどに新たな拠点「すみだラボ」を建設し、開発と製造だけでなく教育の拠点にもしていく方針だ。すみだラボの規模は現在の本社の5〜6倍で、ELSA-dの1.5〜2倍の規模の衛星を同時並行で4機製造できるという。岡田氏は「ここを世界一好奇心が育つ場所にしたい」と述べている。
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