SDGsやESGの観点でも注目、COVID-19から「働く人」を守る米国の労働安全衛生管理:海外医療技術トレンド(68)(2/3 ページ)
本連載第66回で、労働安全衛生管理の観点から、米国の病院における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対応業務の効率化・IT化を取り上げたが、一般企業の職場でも、同様の課題解決が求められている。
労働安全衛生庁がCOVID-19向け労働安全衛生管理ガイダンスを公表
その後2021年1月29日、労働安全衛生庁は、「働く人の保護:職場におけるCOVID-19拡大の低減および予防に関するガイダンス」(関連情報)を公表した。本ガイダンスは、雇用主や働く人が、職場においてCOVID-19に暴露や感染するリスクを特定し、導入すべき適切なコントロール策を決定するのに役立てることを目的としている。
労働安全衛生法上、雇用主には、死亡または重大な物理的損傷を引き起こす可能性があると認識されたハザードのない、安全で健康な職場を提供する責任がある。本ガイダンスでは、以下の通り、雇用主に対して、職場におけるCOVID-19予防プログラムの導入を推奨している。
- 職場コーディネーターの選任
- いつ、どのようにして、働く人が業務上COVID-19に暴露する可能性があるかの特定
- コントロールの階層の原則に沿って、COVID-19の拡大を抑制する対策の組み合あわせの特定
- 支援的な政策・実践を通して、重大な病気のリスクがより高い働く人に対する保護の考慮
- 働く人と、理解できる言葉で効果的にやりとりするシステムの確立
- アクセス可能なフォーマットを利用した、理解できる言語によるCOVID-19ポリシーおよび手順について、働く人を教育・訓練する
- 感染または潜在的に感染して、自宅待機、隔離または検疫している働く人への指示
- 働く人の検疫および隔離のネガティブなインパクトを最小化する
- 業務中に症状を示した働く人の隔離
- COVID-19の疑いがあるまたは確認された人が施設にいた後の徹底した清掃と消毒の実行
- 検診および検査に関するガイダンスの提供
- COVID-19感染および死亡の記録と報告
- COVID-19関連ハザードについての懸念を発する働く人に対する報復からの保護と、匿名化プロセスの設定
- 対象となる全ての従業員に、無料でCOVID-19ワクチンまたは一連の予防接種を実施可能にする
- ワクチン接種した働く人とそうでない人を区別しない
- その他の適用されるOSHA基準(例:個人保護具(PPE)、呼吸用保護具、衛生、血液媒介病原体からの保護、従業員の医療・暴露記録へのアクセスなど)
これに先立ち2020年6月18日、労働安全衛生庁は、COVID-19パンデミックの期間中、ノンエッセンシャルビジネスを再開する雇用主や仕事に復帰する従業員を支援することを目的とした「仕事への復帰に関するガイダンス」を公表している(関連情報)。職場復帰ガイダンスでは、再開のための計画として、以下の3つのフェーズを提示している。
- フェーズ1:企業は、ビジネス運営が可能で実行できる時、テレワークを利用可能にすることを考慮すべきである
- フェーズ2:企業は、可能なところでは、継続的にテレワークを利用可能にする一方、ノンエッセンシャルビジネスの旅行を再開することができる
- フェーズ3:企業は、事業所の制限のない人員配置を再開する
全ての再開フェーズの期間中、雇用主は、基礎的な衛生(例:手の衛生、清掃と殺菌)、ソーシャルディスタンス、病気の従業員の特定と分離、職場のコントロールと柔軟性、特定のフェーズに適切な従業員トレーニングのための戦略を導入すべきであるとしている。
その一方で、職場の安全衛生に関わる監督指導も継続的に実施されている、労働安全衛生庁は、2020年12月31日、新型コロナウイルス感染症パンデミック開始から2020年12月24日までの間に実施した監督結果(監督総件数:295件、違反制裁金総額:384万9222米ドル)を公表している(関連情報)。この期間中、以下のような項目に関する不備が労働安全衛生法違反として指摘されている。
- 書面による呼吸用保護プログラムの導入
- 医療評価、呼吸器適合試験、呼吸器および個人保護具の適切な利用に関するトレーニングの提供
- 負傷、疾病または死亡の報告
- OSHA記録保存様式への負傷または疾病の記録
- 1970年労働安全衛生法の一般義務規定の順守
表1は、 2020年12月18〜24日のCOVID-19に関わる労働安全衛生法違反事案一覧を示している。
表1 2020年12月18〜24日のCOVID-19に関わる労働安全衛生法違反事案一覧 出典:Occupational Safety & Health Administration「U.S. Department of Labor’s OSHA Announces $3,849,222 In Coronavirus Violations」(2020年12月31日)
違反事業所を見ると、医療・介護福祉関連施設が含まれていることが分かる。本連載第63回で触れたように、米国の場合、「エッセンシャルワーカー」の分類には、医療機器に関わる製品ライフサイクルの上流段階から、製造、物流、販売、カスタマーサポート、廃棄に至るまでの業務プロセス全体が含まれる。COVID-19緊急対応下であっても、連邦政府および各州政府レベルの労働安全衛生監督機関は積極的に違反摘発を行っており、米国内で事業を展開する日本企業は注意が必要だ。
その一方で、COVID-19対応で困難な課題を抱える企業や働く人を支援する医療機器/デジタルヘルスのソリューションを開発・提供できれば、新たな市場機会を切り開くチャンスとなるだけでなく、本連載第47回で取り上げた健康関連の持続可能な開発目標(SDGs)や環境、社会、ガバナンス(ESG)投資につながるソーシャルインパクトも期待できる。日本国内では、「働き方改革」や「健康経営」に直結する領域であり、今後の動向が期待される。
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