デバイスへの最適化を自動実行、エッジAIアプリの開発を10倍高速化する開発基盤:人工知能ニュース
フィックスターズは2021年1月22日、カメラなどに搭載するエッジAIアプリケーション開発プラットフォーム「GENESIS DevEnv」の製品版を公開すると発表した。CPUやGPUなど各種デバイスを手元にそろえることなく、コードの自動最適化が行える。この他、エッジAIアプリ開発のひな型となるテンプレートの活用などで、開発工程の自動化や省力化を実現する。
フィックスターズは2021年1月22日、カメラなどに搭載するエッジAI(人工知能)アプリケーション開発プラットフォーム「GENESIS DevEnv」をリリースしたと発表。エッジAIアプリケーションのコードをフィックスターズが開発したコンパイラが自動的に最適化する。利用者はCPUやGPUなど各種デバイスを手元にそろえる必要はない。この他、エッジAIアプリ開発のひな型となるテンプレートの活用などで、開発工程の自動化や省力化を実現する。
開発工数を10分の1に削減
近年、産業領域などさまざまな分野でエッジAIの採用、本格的な導入に向けた取り組みが進んでいる。こうした動向と並行してエッジデバイスに搭載するAIアプリケーションに求める性能の水準も高まっているが、一方で、高度なアプリケーション開発を行える専門人材が不足しているという問題も生じている。
加えて、エッジAIアプリケーションの開発工程では、CPUやGPUなどのデバイスの選定作業や、作成したコードの最適化作業など、人手が必要なプロセスが多くなる。この他にも、アプリケーションの仕様検討や、アプリケーションのデバイスへの実装、コンパイル、性能評価といった工程を何度も繰り返す必要があるため、エッジAIの実証実験を手軽に行うことは難しい状況だった。
こうした課題を解決し、エッジAIアプリケーション開発の自動化、省力化を実現するのがGENESISである。CPU、GPUなどのデバイス選定から、性能評価までの工程の一部をプラットフォーム上で自動化することで、開発効率の向上を実現する。
実際にGENESISを用いた場合の開発工数をフィックスターズが測定したところ、通常時と比べて開発工数を約10分の1に、評価工数は約15分の1に削減できることを確認したという。
NVIDIAやIntel製のデバイスへの自動最適化を実行
利用者は「カメラを使った物体認識」や「物体の針路推定」などアプリケーションの開発目的に沿って、最適なエッジAIアプリケーションのひな型(テンプレート)を選択する。表示されたテンプレート上でセンサー入力や画面描画、画像処理などの機能を示すブロックを適切に配置、組み合わせてアプリを開発する。ブロックごとに、カメラの画角や物体の検出基準など各種パラメーターを変更することも可能。ブロックの構築後は実際に動作させて、コンパイルやアプリケーションの実行が正常になされるかをプレビュー画面で確認できる。
作成したアプリケーションは、CPUやGPUなど各種デバイス向けに最適化可能。デバイス自体はフィックスターズが管理しており、利用者はそのハードウェアを、アプリケーションの最適化や性能評価のためにプラットフォーム経由で、遠隔から利用できるという仕組みだ。利用できるデバイスにはNVIDIAやXilinx、IntelやGoogle製の代表的な製品があるという。このため、フィックスターズ SaaSカンパニー 執行役員 Genesis事業部長の野崎雅章氏は「利用者の立場から見ると、ノーコードでアプリ開発ができる上、ハードウェアの立ち上げや用意も不要となる。専門家でなくとも、一定程度の開発経験のあるソフトウェアエンジニアが使えば、効率的なエッジAIアプリケーション開発が可能になるだろう」と語る。
GENESISの「トライアル版」は無料、「Basic版」はサブスクリプション方式となっており月額1万円(税別)で利用可能。トライアル版はGENESISの全機能を使えるが商用利用は不可となっている。一方で、Basic版は成果物を商用利用できる。
野崎氏はGENESISの展望について、「フィックスターズではこれまでコンパイラの基盤研究開発を行い、知見を蓄えてきた。デバイスへの最適化、コードの高速化を実現するGENESISにもこうした経験が生かされている。今後の目標としては、GENESISを含むSaaS(Software as a Service)事業全体で、2023年に30億円程度の売り上げ創出を目標とする。なお、実際にGENESISで産業用途に耐え得る認識精度のアプリケーションを作成できるかは、今後他社と実施を予定している実証実験の中で検証していきたい」と語った。
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