破れたバーコードもAIが正確に読み取り、物流検品業務を省力化する「Scandit」:サプライチェーン改革(1/2 ページ)
スイスを拠点とするスタートアップ、ScanditのAIバーコードスキャンソリューションは高速かつ複数のバーコード認識を特徴とする。独自開発のAIで、破れたバーコードなども正確に読み取る。Scanditの導入で物流業務はどう変わるか。Scanditの国内販売代理店である、日立ソリューションズの担当者に話を聞いた。
国内の物流業界で労働力不足が叫ばれるようになって久しい。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響でEコマース需要が増大し、現場の業務負担が重くなった一方で、入出荷時作業やピッキングなどの倉庫内業務、倉庫からの運送業務に必要な人手が十分集まらない。こうした環境変化を背景に、物流業者は解決策を積極的に模索している状況だ。
業務負荷低減に向け物流業者が注力する領域の1つが、入出荷時の検品作業におけるバーコード読み取り作業の省力化だ。メーカーから消費者の手元に製品が届くまでの過程で、物流業者は何度も読み取り作業を繰り返す。荷物1個当たりの検品時間を1秒でも短縮できれば、年間でみると作業時間を大きく短縮できることになる。
こうしたニーズに応えるのが、スイスを拠点とするスタートアップ、Scandit(スキャンディット)が開発したスマートフォンベースのAI(人工知能)バーコードスキャンソリューションだ。スマートフォンを活用するため、既存のバーコードスキャナーと比べて取り扱いは容易。一度に高速かつ複数のバーコードを読み取れる機能を搭載し、入出荷時の検品作業を省力化する。また、AIを活用することで、破損したバーコードなども正常に読み取る機能もある。
Scanditを用いることで物流業務はどう変わるのか。国内唯一のScanditの販売代理店である、日立ソリューションズ スマートライフソリューション事業部 通信サービス本部 通信サービスインキュベーション部 担当部長の奥出隆之氏に話を聞いた。
独自開発AIで悪条件下でも高速スキャン
AIバーコードスキャンソリューション「Scandit」は、国内での導入企業はまだ少ないものの、世界中では1000社以上での導入実績がある。現時点では小売業界での導入事例が目立つが、FedExやボッシュなど物流業界、製造業界での実績もあり、多様な業種での活用が可能だ。このうち、日立ソリューションズは物流業界を主軸に国内展開を行う。
Scanditは、スマートフォンにアプリケーションとしてインストールして使用する。バーコードを読み取ると、スマートフォンの画面上にはスキャンした荷物の個数が表示される。カウントは「製品Aは4個、製品Bは6個」といった具合に製品別で行われる。読み取り作業後、計測結果はマスターデータに登録した商品の予定個数と照合され、一致していれば「○」が、異なる場合は「×」のマークが画面に表示される。
特徴の1つが、高速バーコードスキャン機能だ。JANコードやコーダバー(CODABAR)、QRコードなど、荷物に付与されたさまざまな種類のバーコードを瞬時にスマートフォンで読み取る。
さらに、独自開発したコンピュータビジョン技術によって、悪条件下でも読み取れる「タフバーコード機能」も搭載した。バーコードの一部が破れた場合や、曲面上に貼り付けたことでゆがんだ場合、ビニール越しで光が反射して読み取りづらい場合などでも正確かつ高速に認識する。この他、倉庫内などの暗い場所での作業や、バーコードに対して角度がついている地点からの読み取り作業、荷物から離れた場所からの読み取り作業にも対応する。スマートフォンの性能にもよって違いはあるが、荷物から2m離れている地点からも読み取りができるという。
複数のバーコードを1度にスキャンする「マトリックススキャン機能」も搭載した。既存のバーコードスキャナーでは1つずつしか読み取れなかったが、Scanditは撮影範囲に映ったバーコードを全て瞬時に読み取れる。AR(拡張現実)機能によって、バーコードから読み取った情報を、バーコード上に仮想レイヤーとして重ねて表示することもできる。「バーコード上に商品ABCなどの品名が表示されるので、αエリアに配達するべき荷物群の中にβエリアに配達すべき荷物が混在している、といった事態に気付きやすくなる。作業抜け漏れを防ぐ効果がある」(奥出氏)。
これらの機能を活用して、検品作業全体の作業時間を40%程度削減することに成功した事例もあるという。
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