AIロボットでイチゴの受粉を自動化、世界中の食糧問題解決を目指すHarvestX:モノづくりスタートアップ開発物語(7)(3/3 ページ)
モノづくり施設「DMM.make AKIBA」を活用したモノづくりスタートアップの開発秘話をお送りする本連載。第7回は、開発が困難とされる果物の植物工場を、AI搭載のロボットで実現しようと取り組むHarvest Xを紹介する。同社はイチゴの栽培を研究ターゲットにする。一般的にイチゴはミツバチによって受粉するが、じつはこの受粉過程がとても悩ましい問題だった。
ハサミの制御に生きた「ホイップクリームの盛り付け技術」
――渡邉さんがHarvest Xにジョインしたのはいつ頃ですか。
渡邉碧為氏(以下、渡邉氏) 改良版プロトタイプ開発後の、2019年12月にHarvestX にジョインしました。最初に市川さんと顔見知りになったのは、市川さんが技術スタッフをしていた東京大学の学生向け開発施設「本郷テックガレージ」でのことでした。その後、私がクレープを盛り付けるロボットを出品した国際ロボット展で市川さんに再び声をかけてもらって、HarvestXに参加することになりました。
ジョイン後、最初に考案したのが、収穫時に茎を切り取るハサミです。ハサミに搭載したアーム部分で茎をつかむ際に、茎を傷つけないようにアームにスポンジを取り付けて、茎をつかむと刃が出てきて、茎を切断するようにしました。実はこの力の制御には、クレープに使うホイップクリームの盛り付けで培った技術を生かしています。ホイップクリームの盛り付けは、クリームを搾り出す力加減の制御が難しいのです。
――その後、さらに改良を加えましたか。
市川氏 はい。従来の定置型は、あくまで受粉と収穫それぞれの概念実証を目的として開発したものです。これから実証実験を行う中で、本格的な果実栽培を進めるには設備を移動させる必要があります。そのため、2020年10月にレール駆動型の設備を作りました。この設備を使って、国内農業生産者2〜3拠点の協力を得て、実証実験を始める予定です。順調に進めば、2021年夏には製品化して販売できると思っています。
――今後の課題はありますか。
渡邉氏 受粉のメカニズムをさらに極めたいと考えています。食品メーカーや大学など、先進的な研究を進めている方々と共同実験を行いたいです。
市川氏 今はイチゴに特化した育成、収穫用ロボットシステムとなっていますが、今後はメロンやトマトなど別の果物にも挑戦していきたいと思っています。
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