AUTOSARの最新リリース「R20-11」に盛り込まれた新コンセプト(前編):AUTOSARを使いこなす(17)(3/3 ページ)
車載ソフトウェアを扱う上で既に必要不可欠なものとなっているAUTOSAR。このAUTOSARを「使いこなす」にはどうすればいいのだろうか。連載の第17回では、2020年12月に一般公開されたAUTOSARの最新リリース「R20-11」について紹介する。
Concept #5:Classic Platform Flexibility
従来、AUTOSAR CPベースのECUにSW-Cを追加/変更したとすると、RTEの設定変更は必須(例:SW-CのRunnable EntityをTaskにmapping)で、SW-CがBSWへのアクセスを持つ場合にはさらにBSW設定の変更も必要になりました。ですから、CPでは、インテグレーターに高いスキルが要求される上に「全てを把握」することが求められ、インテグレーション作業は「苦労して行うもの」でした。しかし、昨今の技術面の進化のスピードを考えると、「インテグレーション済みのECUソフトウェアのリリースを待つ」という余裕は失われています。
そこで、RTE、OSやBSW群を、SW-Cの変更の影響を受けない下部の基本部分と、SW-Cとの結合の強い部分(SW Cluster、SWCL、なおSWCLはSW-Cのグループごとに複数実装可能)の2階層に分け、あるSWCLでのローカルな変更に対して、他のSWCLが影響を受けないようにする、これがこのコンセプトの基本的なアイデアです。
少々乱暴な例えですが、Linuxなどでの仮想化技術の1つであるコンテナ(Container)技術の考え方を、AUTOSAR CPでも一部取り入れた、というようにも言えますし、また、インテグレーション作業を分担可能、あるいは、分散可能にしたというようにいえると思います。
また、RTEのコード生成やソフトウェアのビルド時間の短縮という効果にもつながることが期待されています。インテグレーターの方には、こちらの方がうれしいニュースとなるかもしれません。
Concept #6:RS Safety
RSは「Requirement Specification」の文書種別を指します。
従来は、安全に関わるRS文書はありませんでしたが、APのFunction Cluster(FC)やCPのBSWの中には、PHMやWdgMのような安全メカニズムが幾つも含まれていますので、ISO 26262のFSR(Functional Safety Requirements)やTSR(Technical Safety Requirements)が用意されていないのは不自然です。なお、CPでは、EXP Overview of Functional Safety Measures in AUTOSARもありますが、これはメンテナンスされておらず、要求の体裁やトレーサビリティーの面でも不足がありますので、FSR/TSRとしては使い物にはなりませんのでご注意ください(その辺のリワークをJASPARなど国内のグループで引き取って実施してもよいのではないかと考えることもありますが、皆さん、いかがでしょう?)。
そのため、RS Safety(Safety Requirements for AUTOSAR Adaptive Platform and AUTOSAR Classic Platform)として新たな文書が発行されました。
なお、WdgMはこの文書を上位要件としてトレースするようにはまだなっていません。
Concept #7:Rework of PNC related ComM and NM handling
このコンセプトはPN技術に関する複数の課題に取り組んでいます。R20-11ではその第一弾として、まず、階層的に接続されたPartial Network Cluster(PNC)群を、Top-Level PNC Coordinatorから末端のノードまでを、たとえそこに複数の中継Coordinatorがあったとしても、同期シャットダウンすることができるようにするための規定が追加されています。
なお、PNというとCAN系統だけをイメージしてしまいがちですが、その制御を行うには、CAN以外のネットワークも含む全体をモデリングする必要があります。というのも、異種ネットワークがゲートウェイ(GW)を介して接続されることはもはや珍しくないからです。そのため、変更はEthernetなどにも及んでいます(FlexRayが今後どれだけ使用されるかは分かりませんが……。利用頻度の低い規格文書のメンテナンスに際しては、ボヤキの声もしばしば上がります)。
Concept #8:Unified Timing and Tracing Approach
タイミング解析や設計、検証、妥当性確認において、より統一されたアプローチで詳細を記述できるようにするものです。BSWなどの機能の変更ではなく、Methodology and Templateに関するものが中心です。
次回に続く
次回は、R20-11で導入された16の新たなコンセプトの残り半分について解説します。
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