「スマート工場」の見え方はこんなに違う、現場視点と経営視点のギャップ:いまさら聞けないスマートファクトリー(2)(2/3 ページ)
成果が出ないスマートファクトリーの課題を掘り下げ、より多くの製造業が成果を得られるようにするために、考え方を整理し分かりやすく紹介する本連載。第2回では、製造現場側見るとかみ合わない経営者側の視点から見たスマートファクトリーを紹介します。
経営陣はスマートファクトリーに何を期待するか
さて、前回矢面さんは、新しく来た専務から「矢面君、スマートファクトリー化を熱心に進めている割にはあまり成果が出ていないじゃないか」(専務)という厳しい意見を言われたのでしたね。印出さんの説明を受けて、専務と話し合いをするという話でしたが、うまくいったのでしょうか。
印出さん、こんにちは。
矢面さん、こんにちは。専務との話し合いはうまくいったの?
そうですね。それぞれの認識に大きな違いがあるということはよく分かりました。
前進したわね。どういう違いなの?
生産技術部長の立場として見れば、製造現場からのデータ収集で現場プロセスを改善するというのは大きなことですが、専務から見るとそこはそれほど響かない感じでしたね。ただ、生産性改善や生産能力向上については関心がありそうでした。
なるほど。
あと、製造現場の活動がデータ化されることで、リアルタイムでより細かい粒度の情報が見られるということには関心がありそうでした。それも、各ラインや装置1つ1つを見るよりは「何かあった時に状況を把握しやすい」というような観点ですね。
他にも気付いたところはあるかしら。
工場の中という観点よりも、サプライチェーンの前後の工程とか、工場間とか工場外と自動的にデータ連携ができるという点が「スマートファクトリーの価値」だと考えているように感じました。
面白い点に気付いたわね。
生産現場側の立場からすると、それぞれの装置や製造ラインの「見える化」や、これらによる改善効果などに注目してしまいます。しかし、経営層からは個々の生産改善の取り組み1つ1つを見ると「経営インパクトが小さい」と捉えられがちです。改善を行った生産ラインで作るものが戦略製品で、その製品の生産能力がボトルネックになっている場合は、こうした取り組みでも経営インパクトが大きいといえますが、そうではない場合は、こうした1つ1つの改善活動だけでは評価を得られないといえるでしょう。
そういう意味では「製造現場のデータを把握できるようになった後の活用」に経営陣側は関心があるといえるでしょう。ダッシュボードによる工場データの見える化や、緊急事態におけるサプライチェーンの組み換えなど、その判断に必要なデータを自動的にリアルタイムに収集できる仕組みを作るということが、平常時の経営効率を高めるとともに、緊急事態時の臨機応変な対応につながるという考え方です。経営陣にとっては工場内の個々の活動は多くの場合でブラックボックスでした。スマート工場化を進めても、工場の知見がなければブラックボックスは変わらないかもしれませんが、その中から、必要な情報は抽出して取り出すことができるようになりますそういう意味で「工場が見えるようになる」ということがまず、経営陣から期待されているといえるでしょう。
製造現場ではそもそも「データやシステムがつながっていない中、どうつなぐか」ということが大きな壁となっています。そこをどうやって超えるかということに苦労して取り組んでいるのが現実です。一方で、経営陣は「データがつながった後の世界」を期待しています。そのため、特に製造現場と経営陣の間では「話がかみ合わない」という状況がよく生まれるのだと考えます。
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