クラスレスの内外装とネコ足が楽しめる、プジョー「208」に乗った:車・バイク大好きものづくりコンサルタントの試乗レポート(4)(3/3 ページ)
さて、今日はプジョーのコンパクトハッチ、新型「208」を取り上げる。1980年代に世界的ヒット作になった「205」、そして日本でも大ヒットした「206」は、フランス車のBセグメントを代表するクルマになった。その後「207」「208」と6〜8年ほどのインターバルでフルモデルチェンジを行い、2019年に最新モデルとなる新型208が発表された。車名は「209」ではなく「208」のまま。今後はこれで定まるのだろうか?
ライバル車は?
先日、トウィンゴの定期点検のため、ルノーの「ルーテシアGT」を代車として借りて70kmほど運転した。オドメーターが6万kmを刻んでいたため、ボディーや足回りに若干のやれが感じられたが、「普通に良いクルマ」だった。変速機は6速のDCT(デュアルクラッチトランスミッション)だ。ルノーではEDCと呼んでいる。
フォルクスワーゲン(VW)のDCTとは違い、低速域でのギクシャク感もほとんどなく、トルコンAT並みのスムーズさとタイムラグのない変速が好印象だった。エンジンも十分にパワフルで、排気量は1.6lかと思って調べてみるとこれまた排気量1.2lのターボエンジンだった。高速道路も走行したが、何の問題もなかった。そういえば排気量1.5lのクリーンディーゼルを載せたプジョー「308」に試乗したときも「これで十分」という感想だった。これからの排気量はガソリンが1.2l、ディーゼルは1.5Lで十分かもしれない。「ダウンサイジング」という言葉はもうすぐ死語になることだろう。
ルーテシアはフランス本国ではすでにフルモデルチェンジが行われ(日本以外での車名はクリオ)、日本市場にまず投入されるのは排気量1.3lの新しい4気筒エンジンと、7速になったDCTを搭載したモデルだと公式サイトで発表されている。208のガチンコライバルはやはりこのルーテシアだ。また、VWには優等生の「ポロ」がいる。筆者はまだ試乗していないのだが、コンパクトハッチのベンチマークである「ゴルフ」を持つVWだから、ポロも決して外さないだろう。
さて、国産車で新型208のライバルを探してみよう。Bセグメントの販売台数でみるとトヨタ自動車「ヤリス」とホンダ「フィット」が圧倒的だが、208のライバルとはなり得ないと筆者は判断する。トランスミッションがCVTであることはクルマ好きには耐えられないからだ。マツダがいち早くCVTから抜け出し、自社開発の6ATを「マツダ2(旧デミオ)」にまで搭載していることは素晴らしい。こうした理由で、ライバル車種をまとめた比較表に、国産車からは唯一マツダ2をノミネートさせた(表1)。
車名 | グレード | 排気量 | 気筒数 | 変速機 | 全長 | 全幅 | 全高 | 最高出力 | 最大トルク | 価格(税込万円) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
プジョー208 | Allure | 1.2 | 3 | 8AT | 4,095 | 1,745 | 1,445 | 100 | 205 | 259.9 |
ルノールーテシア | INTENS | 1.33 | 3 | 7EDC | 4,075 | 1,725 | 1,450 | 130 | 240 | 256.9 |
VW ポロ | Comfortline | 1.0 | 3 | 7DSG | 4,060 | 1,750 | 1,450 | 95 | 175 | 265.3 |
マツダ2 | 15S L Package | 1.5(NA) | 4 | 6AT | 4,065 | 1,695 | 1,525 | 110 | 141 | 209 |
単位:排気量はl(リットル)、全長・全幅・全高はmm、最高出力はps、最大トルクはNm |
価格面をみると、輸入車はディーラーオプションのナビゲーションシステムを装着しなければ総額300万円前後で購入できる。スマートフォンと連携するディスプレイオーディオは標準装備なので、ナビゲーション機能はこれでまかなえる。マツダ2はこの金額を出すのであれば、出色の出来栄えである「1.5L Skyactiv-D」の上位グレードにも手が届く。「え? デミオに300万円?」と思う方もいらっしゃると思うが、マツダ車が勝負したいのは国産車ではなく、輸入車なのである。
国産Bセグメントもがんばってほしい
日本市場をはじめ、世界的にSUVが販売を伸ばしている。しかしそのSUVの多くは乗用車の派生車種である。208をベースモデルにした「2008」、ルーテシアをベースにした「キャプチャー」、ポロをベースにした「T-クロス」、そしてマツダ2をベースにした「CX-3」だ。ベースモデルの出来栄えがSUVのクオリティーにも直結することは間違いのないところだ。マツダ2(当時はまだデミオ)とCX-3の両方を運転したが、SUVは重心が高くなるためベースモデルの方が安心できる。筆者は多分、SUVは選ばないだろう。
このところのフランス車の勢いはすごい。シトロエンは独特のデザインでおしゃれな雰囲気を醸し出している。「C3エアクロス」や「DS3」を駐車場に停めている一戸建て住宅は、住まいそのもののデザインセンスまでいい。また、ルノーはかつてのフランス車らしい、いい乗り心地に回帰してきた。マイナーチェンジした「トウィンゴS」(排気量1lのNAエンジンと5MT)に試乗したところ、筆者のトゥインゴGTの足回りもそっくり変えてもらいたいほどよかったくらいだ。新型ルーテシアも早く乗ってみたい。
国産車に目を向けると、クルマ好きに訴えかけてくる車種は本当に限られる。比較表に乗せたマツダ2以外はスズキの「スイフトスポーツ」だけではないだろうか? トヨタには「GRヤリス」という飛び道具(?)がある。クルマ好きの豊田章男氏によって実現されたようなので、今後のトヨタには期待したい。事実、GRではない「ヤリス」にも6MTが搭載されているグレードがある。ホンダがフィットの現行モデルにRSグレードを設定するのは望み薄だ。
しばらくすると新型208にはGTiが、ルーテシアにはRSが間違いなく追加されるだろう。少し大きな排気量のハイパワーエンジンを積んだホットハッチ、しかもMT。筆者の大好物だ。MTではないものの、ポロには伝統のGTIがある。国産車にも頑張ってほしいところだが、このままでは欧州車との差は縮まりそうにない。筆者が「これなら欲しい!」と思う国産Bセグメントの誕生は、はかない夢なのだろうか……。
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