靴内センサーを小型化せよ、ベンチャーが挑む未経験のスマートシューズ作り:モノづくりスタートアップ開発物語(4)(3/3 ページ)
オープン6年目を迎えた東京・秋葉原の会員制モノづくり施設「DMM.make AKIBA」で社会課題を解決しようと奔走しているスタートアップを追いかける連載「モノづくりスタートアップ開発物語」。第4回はスマートシューズを開発しているno new folk studioのCEO 菊川裕也氏に、開発経緯などを聞いた。
実用に耐える小型センサーの開発
――そこから走ることを可視化するスマートシューズづくりに舵を切っていくことになるのですね?
菊川氏 400mハードルの日本記録保持者である為末大さんをお会いする機会があって、シューズを見てもらった際に、「子どもに走り方を教えるような靴はどうか」とアドバイスをいただきました。続けて、為末氏から「いい着地パターンのときだけ靴が光ったり、靴から音が鳴ったりするという直感的なフィードバックがあれば、子どもたちは教えなくても面白がって走るので、結果的に正しい走り方が身につくと思う」とアドバイスをいただいたことで、一気にプロダクトの方向性が決まりました。
アシックスにはランナーの動きを計測する大掛かりな装置もありますし、ランナーの走り方に関するデータも膨大に蓄積されています。ここに私たちのセンサー技術を組み合わせて試作品の靴を作り、実証実験を繰り返しました。その成果として生まれたのが「ORPHE TRACK(オルフェ・トラック)」です。
――EVORIDE ORPHEの原型となった製品ですね。そこから、何をどう変えて、EVORIDE ORPHEに至ったのですか。
菊川氏 最初に取り組んだのは埋め込みセンサーの小型化です。「ORPHE TRACK」に埋め込んだセンサーは35gで、センサー自体のサイズ感もやや大きく、歩くのであればともかくランニングなど速く走るという用途には向いていませんでした。そのためアシックスからは「センサーを小型化しないと製品としては発売できない」と言われました。センサー内の部品を小型化するなど、ありとあらゆる工夫をして、1年かけて大きさを半分に、重さも20gまで軽量化しました。
体の動きは当社が開発したセンサーで測定します。一方で、各ランナーに提供する走り方の分析やアドバイスといったサービスには、アシックスの長年の蓄積やノウハウが生かされています。
――今後のビジネス構想を聞かせてください。
菊川氏 個人的な目標としては、各ランナーが多幸感を覚えやすい、いわゆる「ランナーズハイ」の状態に近づけるデータフィードバックの仕方を模索しています。この「ハイ」な状態を目指すというのは、私の音楽好きという性格が影響しているかもしれません。
ビジネス的に考えると、毎日身に付ける靴というデバイスにチップを入れることで、日常生活や健康に関するデータが取得できるようになるのは大きい。センサーで取得したデータを分析することで、お年寄りが「いまより10年長く歩き続けられるために必要なこと」がいずれは判明するかもしれない。トップアスリートがセンサー付きのシューズを履き、各アスリートの走り方がリアルタイムに可視化されるとマラソンレースの楽しみ方も変わるでしょう。エンタメや健康分野にどう貢献していけるか、可能性を模索しています。
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