「社内下請け」から競争力の源泉に! これからの調達購買部門が目指すべき姿:製造マネジメント インタビュー(2/2 ページ)
国内では「社内下請け部門」と見なされがちな調達購買部門。しかし、海外では企業の競争力を高める、非常に重要な部門だと認識されている。彼らを競争力の源泉にするには何が必要なのか。クラウド型見積もり査定システムを手掛ける気鋭のベンチャー企業、A1A代表取締役に話を聞いた。
グローバル視点でサプライヤーを選定しろとは言っても……
MONOist 国内製造業者の場合、調達購買システムが垂直統合型のサプライチェーンに支えられていたという事情もあるかと思います。
松原氏 日本の垂直統合型のサプライチェーンは、大手製造業者が下請けに技術移管するというプロセスを繰り返し行ってきて形成されたものだ。サプライヤーの取引先を見てみると、取引先自体が10社程度で、その売り上げの大部分を数社が占めているという、強い相互依存関係が多くの企業で見られる。こうした形態は、買い手であるメーカーがグローバルに見て競争力のある製品を設計できるなら、非常に良い構造だと思う。しかし、メーカー側が良い製品を開発できなくなったら共倒れするしかない。
こうした問題を背景に、国内製造業者は垂直統合型のサプライチェーンを脱却して、グローバルな視点で新たな取引先を開拓するべきだ、といった話もよく聞く。だが、これも実情としては難しい。メーカーは日々事務作業に忙殺されており、新たな取引先を探る時間がない。また、購買記録やノウハウがデータとして可視化された状態で蓄積されていないと最適なサプライヤーを選定しづらい。
もちろん、サプライヤーもグローバル化には危機感を抱いている。海外サプライヤーの「安さ」という武器には勝てないので、必然的に別の競争力を身に付けなければならない。バリューエンジニアリングの基本概念に「V(価値)=C(コスト)/F(機能)」という式があるが、これに従えば、「安さ」で戦えない国内のサプライヤーは「F」、つまり機能の多様化で対抗すべきだろう。
戦略的で合理的なコスト低減方法とは
MONOist 調達購買部門によるコスト低減には、どのような方法があるでしょうか。
松原氏 コスト低減の方法は3つしかない。1つ目は下請け企業のサプライヤーに値下げを要求する方法。2つ目は、大量購入と引き換えにボリュームディスカウントを要求するという、単に値下げを求めるよりは合理的な方法だ。そして、3つ目がデータに基づいたコスト分析を行うことで原価低減の余地を探る方法だ。
個人的には3つ目の手法が、コスト低減の手法としては効果的だと考えている。分析結果に基づいて、戦略的で、合理的な価格交渉が行えるようになるからだ。例えば「この企業はこんなに速く納品できるのか」「この企業は難度の高い加工もできる高い技術力がある」などサプライヤーの技術力をいろいろな側面から理解できるようになる。その知見を生かして、部品や製品ごとに適切なサプライヤーを選定することも可能だろう。反対に、分散していた発注先を技術力の高い1社に集約できると分かれば、1社に絞る引き換え条件としてボリュームディスカウントも交渉可能になるかもしれない。
また、製造業者からサプライヤーへ生産技術ノウハウを移管する、といった道も開ける。例えば、過去の見積もり記録から材料費や加工費、デザイン費などを細かく分析した上で「素材の切断方法を変えれば、部品の生産率が改善できるのではないか」といった提案を自らサプライヤーに投げかける。サプライヤーでの生産改善がうまくいけば、その分製品の購入コストも低減するはずだ。このためには、購買記録を蓄積して、分析するためのデータベース構築を行うなどDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みが必要だと考える。
MONOist 調達購買部門においてDXはどの程度進んでいますか。
松原氏 調達購買部門において明確にデジタル化が進んでいる領域は、受発注業務を自動化するEDI(Electronic Data Interchange)だけだ。さすがに相当数の受発注業務は手動ではさばけない。ただ、受発注前のプロセスはほとんどシステム化されておらず、分析用のデータなどは蓄積されていない。
MONOist 実際にデータ分析を行う際に、分析のための人材確保などは問題にならないのでしょうか。
松原氏 人材という点でいえば、調達購買部門のデータ分析力は、個々人のレベルでいえば非常に高い。他部門から転属してくる人も多いが、購買部門はその業務一筋という人が大変多いからだ。部品や素材に対する目利き力を、職人技のように極めている人も多い。ただ、その知識やノウハウが属人化されていること、かつ、全社的に有用なデータを取得できる環境がない点が問題だと思っている。調達ノウハウやサプライヤーの情報を社内でオープン化すれば、設計部門にも情報を共有できる。製造コストの7〜8割は設計段階で決まると言われるほどで、それならば情報を共有してコストデザインに取り組む方が良い。
DXは実現したいゴールを最短経路で目指す際に有用な手段だ。ITの力でデータ取得と現状の可視化を目指し、ゴールに到達するための最短経路をイメージする。蓄積したデータを基に、システム化を進めながら各種施策の実施を進め、仮説検証を行うことが重要だと思う。
MONOist 今後の調達購買部門の展望について、どのように考えますか。
松原氏 最近ではITツールを用いて自社の売り上げ計画を可視化する取り組みは一般化しているが、一方で製品生産にかかるコストを正確に把握して意思決定に生かすための仕組みづくりはまだまだ途上であると感じる。繰り返しになるが、調達購買部門は製造業にとって競争力の源泉となる大事な部門であることが意識されるようになってほしい。
またDXの観点からいうと、最近では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴って、調達購買部門でも「在宅勤務の環境を構築したい」というニーズが高まっている。実際、当社にもそうした問い合わせが来る。こうした情勢は、DX推進の追い風になると考えている。
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