ID-POSだけでは見えなかった「顧客の考え」、サントリー酒類がAIカメラで実現したいこと:スマートリテール(2/3 ページ)
2020年7月3日、トライアルカンパニーが展開するディスカウントストア「スーパーセンタートライアル長沼店」が、AIカメラなどの各種デジタル設備を導入したスマートストアとしてリニューアルオープンを果たした。スマートストア化を実現した背景には、飲料/食品メーカーらによる共同プロジェクト「REAIL」の存在がある。REAILにも参加するサントリー酒類に、メーカーがAIカメラなどを活用するメリットを聞いた。
流通/小売り、他社メーカーとの協業が成否を握る
MONOist 具体的にどのようなマーケティング施策が展開可能になるのでしょうか。
久松氏 先ほどの購買客における男女比の事例でいうと、もともとは女性向けだった商品を、男性向け商品としてリニューアルする提案などにつなげられる。また、ヘビー/ライトユーザーの例でいえば、ヘビーユーザーは店内での購買意思決定までの時間が短いので、来店前の段階でスマートフォンアプリやデジタル広告を通じてあらかじめ新商品を訴求するといった広告戦略も考えられるだろう。ちなみに、そうした訴求の一手段として、顧客へのおすすめ商品をサジェストする機能を持つトライアルの「スマートレジカート」は有効性が高いと考えている。
MONOist AIカメラから取得したデータやID-POSなどのデータを格納、分析する専用のシステムを導入したと聞いています。
久松氏 分析システムは「SUNTORY-LINK」と名付けている。当社と外部システム関連企業と共同開発した。小売店舗や流通企業から収集した商品に関連する各種データを一括で格納する他、ID-POSデータと連携することで顧客別の来店頻度なども分析できる。
SUNTORY-LINKが持つ具体的な分析機能について、あまり多くは紹介できない。ただ一部を説明すると、例えば、棚の商品充足率を時系列のグラフで見える化する機能などを備えている。ある商品の充足率が週内に何度も0%になるようであれば、あらかじめ商品の陳列数を増やしておくなどのアクションにつなげられる。また、AIカメラで撮影した棚上の画像を蓄積しておく機能もある。当社が計画した棚割り通りに、店頭で商品陳列がなされたかを検証可能だ。
なお、顧客の店内滞留時間などいくつかのデータは、自動的に収集できず、手動でローデータを加工してSUNTORY-LINKに乗せている。この点は、今後改善していきたい。
MONOist 分析体制の整備はどのように取り組んだのでしょうか。
中村氏 体制づくりはそれなりに時間がかかった。大きく分けて分析検証を行うチームと、そこで判明した知見を他店舗にも共有していくチームの2チームを置いている。例えば、トライアル長沼店で実施した施策の効果に再現性があると判断したら、トライアルの担当者に相談して、それを他店舗にも展開していくといった具合だ。
ただ、自社内だけでなく、卸業者や流通/小売業など他業種企業と適切に連携を進めるための体制づくりも重要だった。当然だが、SUNTORY-LINKで分析するデータは、一メーカーである当社だけで全て集められるわけではない。そもそも「どの顧客がどの商品を購入したか」という情報を握っているのは流通/小売業者だ。メーカーとしては共有してもらえたらありがたいが、それには当然、流通/小売業側にもメリットがないと話にならない。
そのため、データを共有してもらうことで「最終的に流通/小売業の酒カテゴリー全体の売り上げや利益をどう上げられるか」を、そして「いかに顧客の満足度向上につながるか」という出口を示すことが重要となる。メーカーが自社のマーケティング力を活用しつつ、流通/小売業にもしっかりとベネフィットが生じるようにデータを活用するよう筋道を立てなければならない。
もちろんメーカー間での連携も重要だ。トライアル長沼店の場合だと、スマートレジカートを通じて届くおすすめのクーポンが当社のアルコール製品のものだけだったら顧客は不満を抱くだろう。カスタマージャーニーを考えて、アルコールから生鮮食料品、調味料など、多様な商品を複合的に提案して、顧客満足度を高める仕組みづくりが必不可欠だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.