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こんな広告活動には要注意! 比較広告や「ステマ」に潜む法的リスクとは弁護士が解説!知財戦略のイロハ(5)(1/2 ページ)

本連載では知財専門家である弁護士が、知財活用を前提とした経営戦略の構築を図るモノづくり企業が学ぶべき知財戦略を基礎から解説する。今回はモノづくり企業が広告活動を展開する上で留意すべき、比較広告やステルスマーケティングなどの諸問題点について解説する。

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 連載第4回の前回は、モノづくり企業がブランド戦略を進める上で、商標の普通名称化を防ぐための方策をご紹介しました。今回は、比較広告やステルスマーケティングなど、プロモーション活動を遂行する上で不正競争防止法が関わる問題を中心に、留意点を幾つかご紹介します。

⇒連載「弁護士が解説!知財戦略のイロハ」バックナンバー

その比較広告に「科学的根拠」はありますか?

 プロモーション活動の中でも、不正競争防止法に抵触しやすい領域の1つが広告活動です。広告における表現方法次第では、不正競争防止法における「不正競争行為」に当たるとして、コンペティター(競合他社)から損害賠償や活動の差し止め、信用回復措置などを請求されるリスクがあります。反対に、コンペティターによる不正競争行為が疑われる場合は、何らかの対応手段を検討する必要があるでしょう。

 以下ではプロモーション活動の中で、不正競争行為に該当する可能性がある行為をいくつか紹介します。

「グリコ・ポスカム比較広告事件」

 最初に取り上げるのは、自社商品とコンペティターの商品との比較を含んだ広告(比較広告)を展開したケースです。

 比較広告で問題となるのは、コンペティターの商品品質を不当に矮小(わいしょう)、劣位化する場合と、自社商品の品質を過度に誇張する場合の2ケースです。前者の場合は、虚偽の事実によりコンペティターの信用を損なったとして、不正競争防止法2条1項21号に定める不正競争行為(信用毀損行為)に、後者では、自社プロダクト/サービスの品質について誤認を引き起こすとして不正競争防止法2条1項20号(品質等誤認惹起(じゃっき)行為)による法的措置を受ける恐れがあります。

 実際に、比較広告による「不正競争行為」該当性が問題となった裁判例としては「グリコ・ポスカム比較広告事件」(知財高判平成18年10月18日(平成17年(ネ)10059号)が挙げられます。同事件では江崎グリコが展開した広告内で、同社のガム商品が持つ歯に対する「再石灰化効果」を、ロッテのガム商品と比べて優れているかのように表現した点が問題となりました*1)。これについて知的財産高等裁判所は、広告内の比較表示はその根拠となった実験に合理性がなく、品質等誤認惹起行為と信用毀損行為に当たるとして*2)、比較表示の使用差し止めが認められました*3)

*1)問題となったのは「ポスカム<クリアドライ>は、一般的なキシリトールガムに比べ約5倍の再石灰化効果を実現。」という表現。ポスカムは江崎グリコが当時展開していた商品。

*2)なお、判決当時は、品質等誤認惹起行為は不正競争防止法2条1項13号(現在の同21号)に、信用毀損行為は同14号(現在の同20号)で定められていた。

*3)10億円の損害賠償と信用回復措置として謝罪広告も請求していたものの、故意や過失はなかったとして、両請求は認められなかった。

「黒烏龍茶類似品事件」

 この他にも、比較広告の不正競争行為が問題となった裁判例としては、「黒烏龍(ウーロン)茶類似品事件」(東京地判平成20年12月26日判時2032号11頁)があります。同事件にはさまざまな争点がありましたが、その1つが比較広告の問題でした*4)。サントリーが、同社の販売する「黒烏龍茶」と酷似した商品イメージを比較広告内で用いた2社を、不正競争防止法に該当するとして訴えたのです。

*4)サントリーは不正競争防止法の該当性以外にも、黒烏龍茶と酷似した包装パッケージの商品を製造、販売したとして、不正競争防止法2条1項1号又は2号、3条1項、2項の規定による被告の各商品の製造などの差し止めと包装などの廃棄に加えて、同法2条1項1号と2号、4条の規定による損害賠償金の支払いを求めていた。

 問題となった比較広告は2種類あります。1つ目の広告(比較広告(a))では黒烏龍茶の包装パッケージに似たペットボトルのイラストを、被告側の企業が製造するティーバックのイラストと「>(大なり)」で結び付けた上で、その下に「1包のティーバックで2リットルのペットボトル1本を作ることができます」と記載をしています。

比較広告(a)。問題となった「黒烏龍(ウーロン)茶類似品事件」の判決広告表示目録より引用。[クリックして拡大]
比較広告(a)問題となった「黒烏龍(ウーロン)茶類似品事件」の判決広告表示目録より引用。[クリックして拡大]

 もう1つの広告(比較広告(b))では「烏龍茶ポリフェノール含有量2070mg 約70倍 サントリーなんかまだうすい!」と記載しており、これらが信用毀損行為にあたるかが争われました。最終的に、判決では以下の判示が下されました。

 一般需要者が、本件各比較広告が掲載されたWebサイト又は被告ら商品Bの包装パッケージの各記載に基づき、通常認識するはずの方法によって作られた被告ら商品Bのウーロン茶重合ポリフェノールの含有量は、350ミリリットル当たり47.6ミリグラムであり、他方、原告商品のそれは、350ミリリットル当たり70ミリグラムであるから、両者の単位量当たりのウーロン茶重合ポリフェノール含有量を比較すると、原告商品の方が多く、よって、その濃度は原告商品の方が濃いといえる。

 そうすると、上記のように解釈される本件比較広告1及び本件比較広告2は、いずれも、客観的真実に反する虚偽の事実であり、かつ、一般需要者に対して原告商品の品質が被告ら商品Bに劣るとの印象を与え、原告の社会的評価を低下させるおそれのある事実であると認められる。

 これに対して被告側の企業は、比較広告(a)は科学的検査に基づき作成したもので虚偽の事実ではなく、比較広告(b)については、実際にサントリーの商品と被告側企業の商品Bとの価格1円当たりのポリフェノール含有量を比較して、その結果を載せたものだと反論しました。しかし、裁判所は、比較広告(a)は検査過程での試料の抽出方法などに疑問が残り、比較広告(b)は1円当たりのポリフェノール含有量を比較したことを示す記載が広告内にはないとして反論を退けました。

 これら2件の判決から、自社で広告宣伝活動を行う際には(1)他社の商品品質の不当な矮小、劣位化、そして(2)自社商品の品質の過度の誇張の2点に留意することが望ましいでしょう。また、商品の性能や効能を積極的にアピールする際には、科学的根拠に基づいて、性能などの宣伝文句を作成すべきです。

対策は比較広告ガイドラインを指針に

 それでは、モノづくり企業が比較広告を使用する場合にはどのような点に留意すべきでしょうか。ここでは一定の指針を示す参考資料として、消費者庁が出している「比較広告に関する景品表示法上の考え方(リンク先はPDF)」(以下、比較広告ガイドライン)を取り上げたいと思います。比較広告ガイドラインでは、以下のケースが不当表示に当たる恐れがあるとしています。

(1)実証されていない、又は実証され得ない事項を挙げて比較するもの

(2)一般消費者の商品選択にとって重要でない事項を重要であるかのように強調して比較するもの及び比較する商品を恣意的に選び出すなど不公正な基準によって比較するもの

(3)一般消費者に対する具体的な情報提供ではなく、単に競争事業者又はその商品を中傷し又はひぼうするもの

 他方、適正な比較広告に必要な要件として以下のものを挙げています。

(1)比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること

(2)実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること

(3)比較の方法が公正であること

 一点留意していただきたいのですが、上記は厳密には景品表示法について触れたもので、不正競争防止法への該当性に関する判断基準ではありません。ただし、両法への抵触に関する判断基準には親和性があるため、参考資料として一定程度役に立つと思われます。より詳細な情報を知りたい方は、比較広告ガイドラインや上記で紹介した裁判例をご参照ください。

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