設計者はどんな視点で設計者CAEを進めていくべきか【ケース2:構造物の熱伝導解析】:実例で学ぶステップアップ設計者CAE(3)(1/3 ページ)
初心者を対象に、ステップアップで「設計者CAE」の実践的なアプローチを学ぶ連載。詳細設計過程における解析事例を題材に、その解析内容と解析結果をどう判断し、設計パラメータに反映するかについて、流れに沿って解説する。第3回は「構造物の熱伝導解析」について取り上げる。
設計者は、部品やアセンブリの強度不足だけでなく、加熱機構や動力回路機能、制御回路機能などを備えた制御盤を装置内に組み込むことによって生じる“熱の問題”にも向き合わなければなりません。
熱の問題について、筆者は以下のような課題に直面した経験があります。
- 表面温度が一定になるようにしたい
- 不要な部分に熱が伝わらないようにしたい
- 部品の熱膨張による平面度への影響がないようにしたい
- 熱源によって装置内空間が熱くならないようにしたい
こうした熱の問題を設計の初期段階で解消できる有効な手段が「設計者CAE」です。
熱伝導と熱伝達、何が違う
さて、皆さんは“熱が伝わること(=伝熱)”に関して、「熱伝導」「熱伝達」という2つの用語を聞いたことがあると思いますが、これら用語の意味の違いをご存じでしょうか。
- 熱伝導
- 温度の高い方から低い方へ、物質内の熱が移動すること
- 異なる物質間の接触部を通じて熱が移動すること
- 熱伝達
- 別々の物質間で熱が伝わること
- 加熱された固体と流体との間で熱が伝わること
※補足1:ちなみに、太陽の日差しを受けて暖かいと感じる「熱輻射」は、赤外線や可視光線を含む電磁波によるエネルギーの移動のことをいいます。
水の入ったやかんをガスコンロで加熱する際、火の熱がやかんの外側から内側へと移動していくのが「熱伝導」、やかんの内側の熱が水に伝わりお湯に変えるのが「熱伝達」です。違いをイメージできたでしょうか。
課題:ヒータープレートの設計
では、熱の問題に対する設計者CAEのアプローチをより深く理解するために、課題に取り組んでいきましょう。
詳細設計中に、カートリッジヒーターを使用したヒータープレートの温度分布の均一性について検討する必要が生じました。ヒータープレートは、カートリッジヒーターを内蔵し、ヒータープレートの上に置かれたワークを加熱します。ヒータープレート面の温度分布には、均一性が要求されます。
ヒータープレート部分は、次のような手順で設計します。
- ヒータープレートの仕様決定(サイズ、材質、使用温度、昇温時間)
- カートリッジヒーターの仕様確定
- ヒータープレートの設計
以下、この手順に沿って設計を進めていきましょう。
1.ヒータープレートの仕様決定
まず、ヒータープレートの仕様ですが、ここでは
- サイズ:150×150×30[mm]
- 材質:SUS303(ステンレス)
- 加熱後の温度:200℃
- 加熱時間:30分(1800秒)
とします。なお、初期状態の室温は20[℃]です。
目標として、表面の有効加熱エリアである□120[mm](120×120mm)内の温度分布を200±2℃に設定しました。
2.カートリッジヒーターの仕様確定
次に、カートリッジヒーターの仕様確定です。まずは、ヒーターに必要な熱量[W]を式1で求めます。
詳細は割愛しますが、今回の仕様や条件を基に計算してみると、
(5.265×400×(200−20))/1800=210.6[W]
となります。なお、この計算は温度分布を求める上での設定条件にもなりますので、省略することはできません。
また、この計算結果はヒーターの熱エネルギーが100%被加熱物の温度上昇に使われた場合の数値になるため、ロスの発生を考慮して、ヒーターに必要な熱量は400[W]以上としました。
3.ヒータープレートの設計
ヒーターに必要な熱量が決まったので、ヒータープレートの設計を考慮し、カートリッジヒーターの規格と本数を確定します。
カートリッジヒーターは、シーズ(※補足2)径とヒーター長を基に、直径10[mm]、シーズ長さ100[mm](シーズの両端5[mm]は非発熱部分)、200[W/本](W密度7.0[W/cm2])、合計800[W]のヒーター熱量のものを選定しました。
※補足2:シーズ(Sheath)とは、ヒーター外側のパイプのことを示します。カートリッジヒーターには必ずシーズがあります。
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