LoRaWAN活用で運用コストを大幅削減、IIJが水田管理用のIoTセンサーなどを開発:スマートアグリ
IIJは2020年6月10日、LoRaWANを活用するIoTセンサーなどで構築した水田の水管理システムの実証実験の報告会を開催した。LoRaWANの活用によって低コストでIoTセンサーを運用できる仕組みを実現している。
インターネットイニシアティブ(以下、IIJ)は2020年6月10日、長距離無線技術であるLoRaWANを活用したIoT(モノのインターネット)センサーなどにより、水田の水管理作業を省力化するシステムに関する実証実験の報告会をオンラインで開催した。IoTセンサーが自動で測定する水田内の水位や水温に合わせて、遠隔操作可能な自動給水弁を制御し、水田内の状態を適切に管理する。実証実験は2017〜2019年度に、静岡県の袋井市と磐田市にある約75haの圃場で実施した。
近年、農業の機械化や自動化が進み、田植えや農薬散布といった作業は大幅に省力化を達成している。一方で水田内の水管理に関しては現在でも手作業で行う農家が多く、農業従事者に負担感をもたらす一因となっている。
こうした課題の解消を目指してIIJが実験的に開発したのが、IoTセンサー「LP-01」だ。LP-01は通信ボックスと防水加工されたセンサーボックスで構成されており、水田内の水温と水位を30分ごとに測定する。測定したデータは水田周辺に設置したLoRaWANの通信を集約するLoRa基地局に送信され、必要に応じてLoRa基地局とつながる自動給水弁を制御して水位を一定に保つ。LP-01は、電源として単3電池2本を使用するものの、太陽光パネルと連携させれば、稲の栽培期間中は電池切れを起こさずに稼働し続ける。
実証実験ではLP-01を300基、自動給水弁100基を同一の水田内に設置して効果を検証した。結果、水管理のために農業従事者が移動した距離が設置前の12.8kmに比べて、設置後は6.6kmにまで減少。水管理にかかる時間も設置前後で約7〜8割減少するなど、一定の成果を上げることに成功したという。
またIIJ IoTビジネス事業部 副事業部長の齋藤透氏は「LoRa基地局を設置することで、IoTセンサーの運用コストが削減可能になった」と説明する。従来の農業IoTセンサーは1台ずつLTE通信用のSIMを搭載していたため、稼働するセンサー数が増加すると、それに伴い運用コストも高額化しがちだった。だがLP-01はLTEではなくLoRaWANで通信を行うため、キャリア通信の料金がかからない。また斎藤氏は「将来的にはLP-01で収集したデータを、当社のIoTプラットフォームを経由して、農業に関わる環境データや作物情報などのデータを集約、共有化する『農業データ連携基盤(WAGRI)』や、畑作用のIoTセンサー、河川の監視センサーなどに送信する仕組みづくりも考えている。この際、LP-01とIoTプラットフォーム間で直接LTE通信を行うのではなく、LoRa基地局とプラットフォームでデータをやりとりさせることで、LTE通信用のSIMを1枚で済むようにする。全体として通信にかかるコストを低減することを目指す」と説明した。
今後の展望について齋藤氏は「当社は長年IoT事業を手掛けてきたが、事業上の課題として『現実に悩みを抱えるユーザーの顔が見えづらい』という悩みを抱えていた。しかし、今回の実証実験では農家の方の意見を伺いつつ開発でき、良い経験を積ませてもらえたと思うし、単純に楽しかった。IoT技術によって日本の農業を変えていく手伝いを今後も続けていきたい」と語った。
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